お知らせ

第49回 全国海外子女教育国際理解研究大会への参加について

 全国海外子女教育国際理解教育研究協議会(全海研)の全国大会が8月6日(土)にオンラインで開催され、秀光中学校・秀光コース教務部長の小保内陽大先生、進路指導部長の加藤隆寛先生が発表を行いました。
2022年度(令和4年度)
第49回 全国海外子女教育国際理解教育研究大会(福島大会)
兼 第18回 東北ブロック海外子女教育国際理解教育研究大会

 大会主題 世界と子どもをひらき、つなぎ、つむぐ教育をめざして
 ~ネットワークでつむぐ、明日の教育~
■ 日時 8月6日(土)10:00~17:00

〈第一分科会〉
教育のグローバル化~IB(国際バカロレア)を日本の教育に
どのように融合していくか

「仙台育英学園のIB教育について」
(教務部長 小保内陽大先生)


 IB(International Baccalaureate)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としている。
 本発表は、そのIB教育の実践発表と共に、授業で実際に使われている「Desmos Activity Builder」を使い、参加者も意見や質問をリアルタイムで書き込めるようにした双方向型のプレゼンテーションで、実際の授業を体験できるものであった。

1.仙台育英学園のIBへの取り組みについて

 秀光中学校・仙台育英学園高等学校秀光コースでは、MYP(Middle Years Programme:11~16歳対象の中等教育プログラム)、DP(Diploma Programme:17~18歳の大学入学前プログラム)が行われている。MYPは学校独自のカリキュラムで構成されており、最終試験がなく自由度が高い。一方DPは、IBのカリキュラムに沿っており、最終試験に向けて学習が行われる。

2.秀光中学校・秀光コースIBの各教科の学び

(1)中学3年生MYP数学の授業から
 関数の授業において教師からの一方的な知識の伝達にせず、「実生活における数学の探究」という一連の学習の中で「関数グラフアート」に取り組んでいる。ルーブリック(評価基準)を基に作品やプレゼンテーションを評価するとともに、ルーブリックから逆算して各段階で考え方や知識を身に付けさせるという学習過程である。以下に、その過程を示す。

① 関数の平行移動や拡大・縮小の性質を身につけるための事前学習
「関数のビー玉転がし」を通して、生徒たちは関数の平行移動や拡大・縮小の性質を学びます。

②関数グラフアート制作と相互評価
事前学習をもとに、生徒たちは「関数グラフアート」の作品制作を行う。
グローバルな文脈や探究テーマに沿ったルーブリック(評価基準)を生徒に提示した上で作品制作に取り組む。プレゼンテーションの際にも、ルーブリックをもとにATLスキルに関する自己・相互評価を行う。
 
 

③「ATL(Approaches to learning)スキル」の振り返り
ATLスキルとはIBにおける「学びのスキル」であり、「コミュニケーションスキル」「協働スキル」「情報リテラシースキル」など10項目がある。作品制作やプレゼンテーションの過程でATLスキルをどのように獲得するかを説明し、スキルを発揮した具体的な場面について振り返り、自己・相互評価を通してスキルの向上を目指す。

④実生活における数学の探究レポートとルーブリック

 グラフアートの制作と全体発表会を通じてGraphing Calculatorの操作方法を身につけ、関数の一般形と変数に関する理解を深めた。それらを応用して実生活の中にある物体や風景に対して関数を求め、「なぜその形になっているのか」を考察する。
 また、グラフアートの制作を通して考えた「数学の美しさ」という抽象概念について、実生活における「科学技術と芸術」というテーマの下で具体的に理解することを目指したレポート課題にも取り組む。


(2)IBに対する生徒・教員の声
 

 
 
〇IBに対する教員の声
・予習してきたことをディスカッションして、自分たちでどこまで深められるかが重要。
・教員はファシリテーターとしての役割が重要。
・授業の中で「批判的思考スキル」を常に意識することにより、生徒たちは多様な考えを持つこと、新しい視点で物事を考えることができるようになっている。
・生徒は、勇気をもって自分の意見を発信できるようになり、相手の意見を受け止め、尊重するスキルが高まった。
・実験の方法・文献の調査・安全性の配慮などを考えて生徒たちが実験した上で、理科で学んだ原理・理論がどのように活かされているかを考えさせる。学んだことと、社会生活のつながりを意識して授業を進めている。
〇IBに対する生徒の声
・プレゼンテーションやディスカッションなど、意見を発表する機会が多く、積極性や批判的思考、協働性などを身につけられた。
・IBは課題の量が多く、効率よくレポートを作成する方法やプレゼンテーションのコツを知ることができた。
・覚えることを目的としているわけではなく、それを実社会に応用するような学習形態を取っている。
・実際の社会とIBで習っている知識がどのように結びついているかを深く考えるのが、特徴的で有意義なところである。
・以前は自分の意見が一番正しいと思ったり、他の人の優れた意見に同調してしまったりしていたが、グループワークを重ねることで、優れた意見であってもすべて同調せずに、批判的な視点から考えることができるようになった。
・自分の意見ばかりが正しいと思わず、意見の多様性を知ることができた。
 

秀光×IB探究指導事例報告」
  (進路指導部長 加藤隆寛先生)

 

1. 秀光中学校・秀光コースIBの探究的な学び


  「秀光中学校・秀光コースの教育目標」や「秀光で育てる人物像」をもとに計画的なグランドデザインを示し、必要なスキル(ATLスキル)を明確にして教科横断的に資質・能力を育成し、総合的な学習でさらに磨きをかけている。
 
  (1) 秀光6年間の探究計画
 

秀光中学校・秀光コースでは、6年間の探究学習の計画を立て、取り組んでいる。
〇中1・2年生…ATLスキルの強化
〇中3…カナダ研修を通してグローバルな課題の発見
〇高1…Personal Projectで、自分の課題に向けてこれまでの知識の応用
〇DPの学習
・TOK(Theory of Knowledge)…「知の理論」=「知」について学ぶことを通して、物事を抽象的に見る力、本質を見抜く力を育てる。
・CAS(Creativity, Action, Service)…「創造性・活動・奉仕」=DPを取得するうえで全生徒が終了しなくてはならない課外活動をする。
・EE(Extended Essay)…「課題論文」=探究課題を設定し、学術的な研究論文を書く。

(2) 探究についての試行錯誤によって得た「総合的な学習の時間」への提案
① 日常の授業での基礎学力の向上をおろそかにしない。
② ATLスキルだけでなく、各教科の学習も大切にする。生徒は、自分の得意分野を知り探究へとつなげるとき、初めてATLスキルが生きてくる。
③ 生徒の視野が広がるため、学校外の方々と触れ合うことを重視する。
④ 教科の枠をいったん外し、自由に探究課題にアプローチすることが大切。そのために、教師間で情報共有の時間の設定も必要。
⑤ 生徒の相談に乗り、探究課題を焦点化するアドバイスが重要。
 
 
〇参加者からの感想や質問への回答

(1)ATLスキルの指導の順序はあるか?
  ⇒コミュニケーションスキル、協働スキルは中1から意識する。また、情報スキルリテラシー、メディアリテラシーを育てることを入り口とし、成長段階に応じて、情動スキル、自己管理スキルなどを育て、最後の段階で、批判的スキル、転移スキル等に発展していく。

(2)評価は、どのように行うか?
  ⇒評価の観点としては、各教科におけるルーブリックで評価をする。単元内でATLスキルを評価する場合は、ルーブリックを先に提示し、振り返りで自分の役割や他者とのコミュニケーションに触れて書かせたり、実際の授業において教師が観察評価をしたりする。

(3)コミュニケーションスキルの目標について、教師間での共有方法は?
  ⇒グランドデザインにおいて、各学年で「コミュニケーションスキルのゴールの姿」を設定してある。さらに、生徒の実態に合わせ、課題に応じて評価基準を設定し提示する。

(4)教科の違いや異種校間での話し合いを円滑にする共通の基盤とは?
  ⇒ATLスキルを話題にする。また、各教科の教師の視点からどのような探究をさせたいかを話し合ったうえで、校外活動や研修旅行を行い、教科横断的な探究へとつなげる。

(5)IBの理念に基づいた授業に、どのように取り組んでいるのか?
  ⇒MYPやDPを教えるためには、IBワークショップへの参加が必要。全教員がそのワークショップに参加し、そこでIBとはどういうものかを知ることができた。毎週1回、教員ミーティングの時間をとるために部活動の無い日を設定したり、定期考査を減らしレポート等の評価をしたりすることで時間を生み出したりしている。

(6)IBは生徒や教師をどのように変容させたか?
  ⇒生徒が質問に対して求められていることをきちんと捉え、的確に伝えることができるようになった。また、質問する力、論文を書く力、自己管理をする力等がついており、大学に進学した卒業生たちからも「IBで学んだ力が大学で生きている」という声があり、将来に結びついていることを実感している。また、教員自身にもATLスキルが身に付き、授業や個別指導の内容が向上していると感じている。

(7)プレゼンテーションの見やすさ、わかりやすさ、論点の明確さなどについて、どのような指導をしているか?
  ⇒綺麗に分かりやすくまとめてあるかという抽象的な視点だけでなく、各教科の観点からアドバイスをしている。例えば数学では、「表にまとめたら見た人はどう感じるか?」「どのようなグラフにするとデータを適切に表現できるか?」「受け取る側は、どういうポスターだとわかりやすいの?」といった視点からアドバイスをする。

(8) 動画や写真を上手に活用されて、とても分かりやすかったです。ICTの活用も勉強になりました。さらに、IBのすばらしさや、子ども達の予習の頑張りが必要なことなどが分かりました。取り入れられそうなことから、現任校で実践していきたいです。