図書館だより 43号

図書館だより 43号

想像力の源

  • 仙台育英学園高等学校
    秀光中等教育学校
        校長 加藤雄彦
  •  

 雲一つない秋空と紅葉が鮮やかな泉ヶ岳を眺めながら、稲刈りの終わった田んぼの畦道を歩いていると、聞き覚えのある鳴き声が空から聞こえてきました。それは仙台平野に戻って来たことを告げる6羽の白鳥のご挨拶のようでした。北国からの長い旅を無事終えて、安堵感と疲労感が入り混じった白鳥の野太い声に心が奪われたとき、グリム童話にある「六羽の白鳥」をふと思い出しました。
 この話は、継母であるお妃が7人の継子を嫌って、魔法の肌着を使い、6人の兄たちを次々と白鳥に変えるのですが、難を逃れた末娘がさまざまな苦難を乗り越えながら成長し、兄たちを人間に戻すサクセスストーリーです。
 グリム兄弟が聞き集めたドイツの昔話の本の題は『子どもと家庭のメルヘン集(昔話童話集)グリム兄弟収集』として世界中の人々に親しまれています。このメルヘンという言葉は空想的な物語を指すものとして使われていますが、グリム兄弟がメルヘンと言っているのは民間で語り伝えられてきた昔話、民話の類です。
 グリム兄弟が古来の法律、文学、言語の研究に夢中になっていた当時のドイツは変動の時代でした。伝統的な神聖ローマ帝国は衰えて、ドイツは多くの国に分かれて非統一状態にありました。同時にフランスからの革命思想の影響とナポレオン軍の侵入・占領を許していたので、グリム兄弟はドイツ人の宝である昔話・民話を守り、後世に伝えたいと考え、1806年から1857年までの50余年の時間をかけて収録した200話の大著を出版したのです。
 本日ご紹介する『グリムの昔話1・2・3』(訳者大塚勇三、画家フェリクス・ホフマン、福音館書店発行2002年10月初版)は、そういうお話のうちからホフマンが101話ほど選び、それに優れた絵をつけたものです。彼はスイスで1911年に生まれ、ドイツの美術学校で絵を学び、卒業後、故郷アーラウで挿絵の仕事を始めます。版画のほか、ステンドグラスや壁画の制作も行い、1957年の絵本『オオカミと七ひきの子ヤギ』でドイツの年間優秀賞に選出されています。彼の作品には華美な装飾はなく、ドイツの日常生活を容易に想像させる説得力があると思います。また、挿絵には、その出来事が現実にあったと思わせるリアリティがあり、幼い子供たちが作り話のなかの様子を容易に理解できる表現力があります。
 現代社会はインターネットが有力な情報交換ツールとなっていますが、私はここにある種の不安を抱いています。
 私は、幼いころから自分のペースで本を読み、その中に表現されている情報から情景をじっくりと想像する習慣を身に付けてきました。一方、さまざまな情報がスピーディーに画像と言語に変換して現れる現在は、理解したような錯覚に陥ります。何かをそこから想像できていればマシでしょうが、その瞬間の感覚だけを拾っているように思えてならないのです。
 これは多分世代的な問題かと悲観したこともありましたが、それは勘違いだったと思う場面がありました。私がある大学の学生たちに話す機会があったとき、「画像がないのか」と尋ねられ、話題から想像することができないので次回からは用意して欲しい」と言われた時のことです。そのときの話題は皆さんもご存知のはずの『竹取物語』を題材にしていました。幼いころ大人から絵本で読んでもらい、絵本の挿絵を見ながら場面を想像する体験をしていることを前提に話したのですが、仮にそのような体験が不足しているとすれば、常に挿絵と同じ画像データを見てもらわないと理解が進まないのかと少し残念な気持ちになりました。 日本人の心のなかにある伝統的な昔話・民話を大人が大切に扱う習慣こそが子供の健全な成長を保障するのだと思います。皆さんもいずれは家庭を持ち、大切なものを次世代に伝えていく大切な使命があるはずです。しかしながら想像力の源となる本との出会いを疎かにすると、画像がないと理解できない、味気ない時間を過ごすことになるのではないのでしょうか。この心配が、杞憂に終わるよう祈ります。

 

平成28年度 宮城県高等学校図書館研究会 読書感想文コンクール

部会長賞

対象図書『舟を編む』 三浦しをん
 
「努力の先にあるもの」

特別進学コース1年1組 
利根川 千咲
 

 「辞書」と聞いて、何をイメージするだろうか。堅苦しいもの。分厚くて重たいもの。言葉の意味などが書いてあるもの。辞書を愛読している人は、もっと違ったイメージを浮かべることができるのだろうが、今の私には、これが精一杯である。
 勉強机からも、手の届く範囲に辞書はきれいに並んでいるが、ほとんど活用したことはなく、全てを電子辞書で補っていた。重い辞書を手にし、整然と羅列された文字の中からお目当ての言葉を探し出す。たったこれだけのことかもしれないが、私には荷が重い作業である。一方の電子辞書は、軽量なうえ、私が調べたい言葉を検索するだけで、あっという間に意味が表記される。この手軽さが私から辞書を遠ざけてしまう理由でもあるだろう。
 しかし、辞書にはたくさんのメリットがあることも知っている。見開きであるために、関連事項や必要な情報が得やすいということもその一つである。線を引いたり、付箋を貼ったりできるので、愛着度も増してくる。便利で効率的な電子辞書ではあるが、頼りっぱなしでは受け身の勉強になってしまうので、少々気が引ける部分もある。
 この夏、私は『舟を編む』を読み、辞書を手掛けた人たちの辞書に対する鬼気迫る情熱と、どんな困難にあっても諦めない態度を知り、私のこれまでの生活態度を顧みて強い衝撃を受けた。
 馬締(まじめ)は、入社して3年目であるが、目立たない存在であった。しかし、荒木に言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれる。そこから、馬締、荒木、松本先生は、新しい辞書「大渡海」の完成に向けて、舟を漕ぎ出すこととなった。とは言え、資金面の問題や人員不足に加え、「大渡海」の編集が危ぶまれる事態となり、スタートから暗礁に乗り上げてしまう。おそらく、今までの馬締だったら、人との関わりを持とうとしないので蚊帳の外のできごとで終わっていただろう。しかし、私は馬締の心の変化に驚かされた。いつしか馬締は、職場の人と仲良くなって良い辞書を作りたいと願うようになっていた。この思いは辞書編集部の心を一つにし、どんな荒波にもまれようが、座礁しようが、目標に向かって漕ぎ出す強さに変わっていった。
 私はふと、日本中、いや世界中に感動を与えたオリンピックに似ているなと思った。辞書作りとオリンピックなんて、とてもかけ離れているかのように思えるが、4年に一度の大舞台にかける思いは、馬締たちの辞書作りにかける思いと何ら変わらないのではないか。
 オリンピックは、アスリートたちにとっては夢の舞台である。そこにたどり着くまでには、直前まで底知れぬ努力があったことだろう。苦しさや悔しさをバネにし、仲間や家族に支えられ応援を力に変える。「金メダル」という目標に向かって一歩一歩歩み続ける。
 いったい彼らの原動力は何なのだろうか。諦めずに情熱を傾けられるその根源には、いったい何があるのだろうか。
 私は、今、何も動きだせない自分が無性に恥ずかしく、悔しい気持ちで一杯になった。
 小さい頃から好奇心が旺盛で、習い事を数多くしてきた。水泳・ピアノ・書道・バドミントン・英会話……。他にもまだある。どれも辞められず(もっと時間が欲しい)とさえ思っていた。しかし、受験生となり勉強に集中したいという理由でピアノ以外は、すべて辞めてしまった。後悔はないと言えば嘘になるが、自分の判断に誤りはなかったと思っていたし、(これで勉強に集中できる)と信じていた。しかし、どうだろうか。情けないことに今は、成績も維持できずどんどん下がってきている。私には、将来の夢がある。ここで諦めるわけにはいかないのだ。いったい私には、何が足りないのか。
 「自信」。そう「自信」なのではないだろうか。アスリート選手は、口々に『誰よりも練習を重ねてきたという「自信」があった』と言っていた。馬締も、異動してきた頃は職場に馴染めず悩んでいた。だが、『伝えたい。つながりたい。』と強く思い、人と触れ合っていく中で優しさや人を信じること、そして人を愛することを学んでいく。不安が「自信」に変わり、馬締を強くしたと言えるだろう。
 私には、勉強に対してそれほどの「自信」があるだろうか。点数が悪くても「次、頑張ればいいや」と悠長に構え、悔しいという気持ちさえ、無くしかけていた。無くしかけていたと言うよりは、成績のことを考えないようにしていた。というのが本音だ。いつの間にか、嫌なことから逃げ出す癖がついていたのだ。
 誰しも、夢にかける思いはあるだろう。叶う、叶わないは自分の心の中次第だ。
 長い年月をかけて作られた辞書を手元に、私も今日から、逃げることなく自分の生き方と向き合っていこう。努力が「自信」に変わるまで。そして必ず自分の夢を達成させる。
 


優秀応募作品

対象図書『ぼくは君たちを憎まないことにした』 アントワーヌ・レリス著 土居佳代子訳  

「残された家族の思い」

秀光中等教育学校3年1組
保科 杏奈

 この本を読んで、自分や家族がテロにあった人にしか分からない、テロの本当の恐ろしさと家族の大切さが分かりました。また、筆者のアントワーヌがテロを通して心が強くなっていくのが伝わりました。
 私はテロを、テロリストが無差別に人を殺してその人の人生を奪い、また、その人の家族から大切なものを奪っていく、同じ人間として絶対にしてはいけないことだと思います。この本では、パリの同時多発テロ事件で妻を亡くしたアントワーヌの心情が書いてありました。テロとはどんなに恐ろしく、残された家族はどんなに悲しいのか、私の言葉では表せられないほど気持ちのこもった文章で、読んでいる間に何度もアントワーヌの立場になって考えさせられました。その文の中で特に印象に残った文が4つあります。
 1つ目は、この本の題名である『ぼくは君たちを憎まないことにした』です。私は本屋でこの題名を見て、疑問を持ちました。なぜテロリストに最愛の妻が殺されたというのに「憎む」ことをしないのか、不思議でたまりませんでした。しかし、この本を読んでいくうちにアントワーヌの心がだんだんと強くなっていくのが伝わりました。強い心になったからこそ、テロリストを「憎む」ことをしないのだなと思いました。
 2つ目は、テロの次の日に妻の姉がアントワーヌに電話『アントワーヌ、残念だわ。やっぱりエレーヌは……』と言った文です。この文を読んで、アントワーヌは妻が死んだことを知り、とても悲しいだろうと思いました。大切な妻が自分と息子を残して亡くなってしまうのは、私だったら悲しくて立ち直れないと思うし、息子と今後普通に暮らしたり、息子が成長してから母親の事を正直に言えないと思います。しかし、アントワーヌは悲しみから少しずつ立ち直っていき、息子と懸命に生きていっていることが伝わり、すごいと思いました。
 3つ目は、「……あの人たちの死が無駄になってはならない……」という文です。最近テロが多くなってきていて、日本でもいつテロが起こるか分かりません。この文を読んで、パリの同時多発テロ事件でアントワーヌの妻も含め、多くの人々が亡くなって、残された家族は失うものが多かったと思います。しかし、その分、私たちにテロの恐ろしさや家族の大切さ、またテロを起こしてはいけないことを教えてくれました。
4つ目は、『エレーヌはぼくたちと一緒にいる。ぼくたちは三人だ。これからもずっと三人だ。』という文です。この文は、最後のページに書いてあり、アントワーヌと息子の心の中には、まだ妻が生きていると感じました。1つ目の文と同じで心が強くなり、これからも心の中にいる妻と3人で一緒に生きていこうという気持ちが伝わってきました。私は、アントワーヌが完全ではありませんが、悲しみから立ち直ったからこそ、思える文だと思いました。もし、私の家族がテロや事故で死んでしまったとしても、アントワーヌのように少しずつ悲しみから立ち直り、この文のように心の中で生きていて、ずっと一緒であると思える強い心を持ちたいと思いました。
 この4つの文は私にとって、テロの事を考えさせてくれるキーワードとなりました。また、この本は今後世界中のどこかで起きるかもしれないテロを止められるかもしれないくらいの大きな力を持っていると思いました。アントワーヌやその妻と息子、また、テロにあった人やその家族は苦しみや悲しみを味わった最悪の日となり、「特別な日」となったのではないかと思います。だから、この「特別な日」を絶対に忘れてはいけません。また、私達が大人になったらこの事件のことを若い世代に伝えていき、もう二度と「テロ」という言葉を見たり、聞いたりすることがない世界になっていってほしいです。そして、世界が少しでも平和になればいいなと思います。
 2020年には東京オリンピックが開催されます。世界中から多くの人々が日本に来るので、テロが起こる可能性はないとは言えません。日本人も外国人も安全に楽しめるようにテロ対策をすべきだと思います。さらに、私達が大人になっても、テロについて考えなくてはいけなくなると思います。その時は、テロと真剣に向き合って、テロリストの心を動かせるようになればいいなと思います。今の世界はすぐに平和になれるわけではありません。だから、この本で読んだことを生かし、これからもテロについて自分の考えがもっと出せるように考えていき、この本のような事が起きない世界を作りたいです。
 

第10回青春のエッセー 阿部次郎記念賞
第8回 明治大学文学部読書感想文コンクール 受賞者発表

 東北大学文学部と阿部次郎記念館が主催する「青春のエッセー阿部次郎記念賞」にて、秀光6年生の小野佑華さんが2年連続で最優秀賞を受賞しました。
 さらに、明治大学文学部主催の読書感想文コンクールで、秀光5年生の中野亜里沙さんが優秀賞を受賞しました。 おめでとうございます!

「阿部次郎記念賞」 最優秀賞(自由作品の部)
小野 佑華  「老いる君 照り映える花」
「明治大学文学部読書感想文コンクール」 優秀賞
中野 亜里沙 対象図書『博士の愛した数式』

図書館内PCで学ぼう

今年度より、宮城野校舎図書館に46台・多賀城校舎図書館に40台の学習用PCが導入されました。
昼休みと放課後に自主学習をしたり、授業の課題や進路情報を集めたりすることができます。
図書館内の蔵書とインターネットを活用し、充実した情報収集が可能になりました。
まだ利用したことがない人も、図書館へ足を運んでみてください。

  •  



《先生方へ:授業等での利用について》

図書館へ連絡をしていただき、PCの利用を含めた図書館利用予約をすることができます。
各教科での学習や、総合的な学習の時間に、ぜひ図書館PCをご利用ください。
学習テーマに関する図書の検索・収集も承ります。

PC利用に関するきまり

○PCを利用する時は、「PC利用簿」に必要事項を記入してください。
○PCは学習目的・進路調査等の目的でのみ利用できます。
○USBメモリ・CD-ROMなどの外部メディアは利用できません。
 データの保存にはクラウドシステムを利用してください。
○トラブル等が発生した場合は、図書館職員へ報告してください。

情報収集サポート本の紹介

*【宮】…宮城野校舎にあります
*【多】…多賀城校舎にあります
 

▼問題を「考える力」を育てる


「天才児のための論理思考入門」(三浦俊彦,2015,河出書房新社)【宮】
◇子どもからの質問を題材に、文理系・社会規範など様々な観点から1つの問題を追究する力を育てる1冊。

【他にもこんな本】
「学び続ける力」(池上彰,2013,講談社)【宮】
「10歳から身につく問い、考え、表現する力」(斉藤淳,2014年,NHK出版)【多】 
知的複眼思考法(苅谷剛彦,2002,講談社)【宮】
学び続ける力(池上彰,2013,講談社)【宮】
あらためて学問のすすめ(村上陽一郎,2011,河出書房新社)【多】
10歳から身につく問い、考え、表現する力(斉藤淳,2014年,NHK出版)【多】
 

▼情報を「整理する力」を育てる
 

「世界を信じるためのメソッド ぼくらの時代のメディア・リテラシー」
(森達也,2006,イースト・プレス)【宮】
◇現代社会において大量に提供される「情報」の中で、本当に必要なものを手に入れるための力を知る1冊。

【他にもこんな本】
思考の整理学(外山滋比古,1986,筑摩書房)【宮・多】
佐藤可士和の超整理術(佐藤可士和,2011,日本経済新聞出版社)【宮】
 

▼情報を「集める」手がかり  
 

「総合百科事典ポプラディア新訂版 1【あ・い】」(2011,ポプラ社)【宮】
◇知りたいことがあったらまずこの1冊。「関連項目」が青字で書かれているため、その事柄のキーワードをすぐ見つけることもできる。

【他にもこんな本】
現代用語の基礎知識(自由国民社)【宮・多】
日本国勢図会・世界国勢図絵(矢野恒太記念会)【宮・多】


▼考えを「伝える力」を育てる
 

「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」(川上量生,2015,NHK出版)【宮・多】
◇情報の分かりやすさ、「ノイズ」の挿入など、自分のイメージを人に伝えるための技や課題をスタジオジブリのクリエイターを通して知る1冊。
   
【他にもこんな本
アイデアを形にして伝える技術(原尻淳一,2011,講談社)【宮】
日本語の<書き>方(森山卓郎,2013,岩波書店)【多】

編集後記

アメリカのミュージシャン、ボブ・ディランが昨年ノーベル文学賞に選ばれました。歌詞が人々に歌い継がれる時、音楽も文学となり得るのでしょう。古代ギリシャの詩や神話、日本の「平家物語」、各国に伝わる民話など、口伝えによって受け継がれてきた物語はたくさんあります。それらは聞き手の想像力によって壮大な世界観を創り出し、受け継がれるべき文学となったのだと思います。世に溢れる情報を素早く選択する能力も必要ですが、校長先生のお言葉にある「想像力の源」は様々な物語や芸術の中にあります。美しいものをじっくりと楽しむ時間を大切にしていきたいものです。(浅川)