教育と進路

オンライン授業の事例紹介

物理

ICTを利用したオンライン・オフライン授業に対する効果と課題

秀光コース 物理担当 加藤 隆寛


 
 

1、はじめに

 コロナウイルスの蔓延によって、Zoom, Teams, Google Meet等のオンライン会議ツールを利用した遠隔授業が全国的に広がった。今まで基本的には現場でしか生徒に対して指導ができなかった状況から、自宅からでも情報発信をできるようになり、教員も仕事の幅が広がった。基本的なオンライン授業の形態としては、PowerPointやGoogle Slide, PDF化した自作教材を画面共有し、タッチペンなどで補足するものがほとんどである。しかしながら、オフラインで行っていた内容を無理にオンラインに置換しようとした場合、ホワイトボードを直接見ることや教員の話を直接聞いていた解像度に比べれば質は劣り、生徒が集中して授業を受けることができない事実は否定できない。集中力持続問題の解決のため、生徒が受け身で授業を受けるのではなく、アクティビティを通して能動的な学習を行うことは、一つの解決策となり得る。このレポートでは主に2020年4月〜8月までに実践してきた内容とそれに対する振り返りや展望について述べていく。

2、目的

 コロナウイルスの蔓延によって、Zoom, Teams, Google Meet等のオンライン会議ツールを利用した遠隔授業が全国的に広がった。今まで基本的には場所を問わず生徒が学び続けることができる環境構築について実践例を交えてそれぞれの効果について考察する。

3、実践例

 ここでは、仙台育英学園高等学校秀光コース1M1における授業実践例を紹介する。

① 予備授業
 動画プラットフォームYoutubeに自作の授業動画をアップロードし、事前学習を行う。投稿した動画はマイリスト に登録し、いつでも生徒が確認できるようにする。動画撮影には自前のスマートフォン(iPhone11)を利用し、動画編集にはInShot, Adobe Premiere Pro, iMovie, Vrew等のアプリケーションを利用し、必要に応じて字幕やワイプを入れるようにする。また、編集が手間である場合にはOBS Studioの録画機能を利用し、直接マルチタスクの動画を撮影する。OBS Studioは編集の手間がないため、補足説明など簡易的な説明をするときに重宝している。

  • 図1 予備授業動画の例
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② 事前準備
 授業で使う教材については、Google Driveにて共有している。このため、生徒は必要に応じて印刷を行う、あるいはプリントをwordファイルでダウンロードし、自分のデバイスを利用して直接書き込みを行うことができる。  

③ オンライン授業 (導入)
 重要概念確認・作業説明(5分)
 基本的にはシミュレーションを用いたアクティビティベースで行う。まずは、事前共有した自作プリントをZoomの画面共有機能を利用して、重要概念確認やアクティビティの内容など最低限の説明を行う。 (展開)グループ作業(30〜40分) 指定したWebサイトにアクセスし、グループ毎にアクティビティに取り組む。グループ分けは教員がランダムで指定したブレイクアウトルーム機能を用いて、毎時間別のチームを作っている。物理で主に利用しているシミュレーションサイトにはPhET, Geogebra, 高校 物理CG動画 教材Desmos, JavaLabなどが挙げられる。特にGeogebraは簡易的にシミュレーションを作成し、必要に応じて拡張現実(Augmented Reality) 機能を用いることもできるため優れていると考えている。これらのサイトによって得られたデータをGoogle Spread SheetやExcelによる数値解析によってグラフ化したり、プリントにまとめたりする。この間ブレイクアウトルーム間を行き来し机間巡視の代わりを行う。 (振り返り)グループ別発表(10分)  メインルームに戻り、それぞれのグループの代表者が結果を共有してもらいつつ発表を行う。このとき結果に不具合等がある場合には、他の生徒や教員が質問をしながら探究を行う。
全て終了後次回に向けたアナウンスを行い、終了する。

  • 図2 授業内グループ別発表の様子
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④ 自宅学習
 授業や学習によって生まれた質問には、Slackを利用して回答を行う。高校1年生だけではなく、同じグループ内に上級生も含まれており、質問・回答の共有ができるようになっている。また、直接教員に匿名でも質問ができるフォームも用意している。

 

  • 図3 Slackによる質問回答例
 

⑤ 形成的評価
 Google Formを利用した小テストを実施している。自動採点機能を利用して正答率が70%に満たない生徒には補習を行う。

⑥ 総括的評価
 IBMYPのカリキュラムに則りA〜Eの5観点で評価する。それぞれの観点を主に以下の総括的課題を利用して評価している。

 
観点 総括的課題
A評価「知識と理解」 定期考査、実験計画書、実験レポート
B評価「探究と計画」 実験計画書
C評価「手法と評価」 実験レポート
D評価「科学的影響の振り返り」 エッセイ
E評価「学びに向かう力」 関心・意欲・態度

一学期には重力加速度測定の実験を行い、それに関する実験計画書と実験レポートを総括的課題に設定した。実験中は生徒持参のデバイスを利用して動画撮影を行っている。

 

4、効果と課題

  • 図4 アンケート結果

 IBMYPでは、知識の定着だけではなく、ATL(Approach to Learning)スキルと言われる質の高い学びを実現するためのスキルの形成も求められる。ICTを利用した学びには、コミュニケーションを促進する、必要な情報を収集し記録するリサーチスキルの育成など、ATLスキルを育てるための要素が含まれていると言える。デバイスさえあれば場所を選ばず同質の学びを行うことができるため、休校措置に悩まされる心配はない。

 シミュレーションを利用した授業では、説明や実際に実験することが難しい事象においても理想的な状況を実現することができる。実際に、生徒の声からもとても学びになったという声が全体の87.5%という結果を得ることができた。


 また、シミュレーションを用いることで実験に必要な解析のスキルを身につけることができることもできたため、MYPの観点B, Cに対して学びを深めることができた。普段から対話重視の学習を行っていることもあり、総括的課題の実験レポートでは能動的に他グループの実験結果と自分の実験結果を比較した考察も見られており、協同学習の成果も見られた。
 小テストは家でも行うことができ、時間を使って学習に取り組むことができるため、不明な点を自ら調べ学習する習慣づけや目標を明確化することができる。アクティブラーニング主体や遠隔授業のスタイルでは、知識の定着が課題となるが、生徒の学習定着度が視覚化される取り組みは今後も継続していくべきである。
一方課題として見えてきた点もある。事前学習の動画は集中力維持の観点から10分以内の動画製作を主としてきた。学力下位層に対してはある程度の効果があるものの、教科書を読んで一から理解できる生徒にとっては動画視聴へのモチベーションにつながらなかった。動画製作には編集も含めて一本あたり平均2時間程度の時間がかかるため、現状の運用ではコストパフォーマンスの点で改善余地がある。
 加えて、オンライン授業内での良質な問題演習については見出しきれていない。Classi NoteやGoogle Documentを利用したクラウドサービス上にノートを作り、提出されたものに対して添削する方法もあるものの、タッチペンの使用状況や紙に記入した内容を改めてアップロードしなければならないなど手間がかかることは否めない。
 このように協同学習を促進する、簡易的に重要概念を理解するための方法は定着させることができたものの、授業動画の運用や通常授業で行われる問題演習の質の向上はこれからの課題である。

 

5、今後の展望

  • 図5 Edpuzzle動画学習の例

 授業動画の運用について挙げられた問題については、Edpuzzleと呼ばれる動画内にいくつか質問を埋め込むことができるサービスを利用して解決できる可能性がある。生徒それぞれの質問への回答結果や視聴状況も管理することができるため、自宅で回答してもらった内容を元に授業内で議論することも可能である。この場合、事後学習ではなく事前学習の段階から生徒の学習定着度を把握し、柔軟に授業展開を行うことができる。
 問題演習については、全員一斉授業を諦め、個人の弱点に合わせたアダプティブ・ラーニングができるアプリケーションの利用もアイデアの一つである。現在ClassiもKnewtonと提携し、問題をレベル別にレコメンドすることができる機能が搭載されているものの、問題数が少なく未だ上手く機能していない状態である。他サイトを利用する場合、ck-12も候補に挙がるがこちらは言語が英語であるため、日本語のテストと合わせると混乱する可能性がある。このように、未だいくつかの問題を抱えてはいるものの、Classiのアダプティブ・ラーニングについて、問題数の充実やAIの性能が向上された場合、授業時間内の問題演習の時間をできるだけ少なくすることはできるかもしれない。
 また、シミュレーションの質の向上も授業力向上の要素の一つである。今後の展望として、Unityと呼ばれる自作ゲームを作成することができるソフトウェアを授業内に組み込むことができないかと検討している。このソフトウェア内では現実の物理現象をプログラミングにより再現することができる。これを用いればゲームを行いながら物理を理解できるようになるかもしれない。また、生徒がプログラミング技術を習得すれば、課題の中で各々がゲームを作成し評価し合うようなことができるかもしれない。このUnityは現在実際のテレビゲームやアプリ開発にも利用されているソフトウェアであるため、キャリア形成につながる可能性が高い。

 

6、 まとめ

 オフラインで行っていたことをどのようにオンライン授業で再現するかという論点から抜け出し、場所を問わず良質な教育方法を提供するためにはどのような取り組みを行ったらよいのかという観点を持ち授業展開を行った。シミュレーションサイトを用いた授業展開によって、場所を問わず能動的に学習することができるようになった。また、オンライン会議ツールを用いて授業時間内で他生徒と協同学習できる環境づくりは十分成功したと言える。今後はAIを活用したアダプティブラーニングによって自宅で自分にあった問題演習やソフトウェアの開発を通して、生徒が自ら学びに向かう力を育てていきたい。