オンライン・ICT授業の事例紹介
現代社会(IBDP History の準備を兼ねる)
第5章 現代の経済社会と私たちの生活「6.金融機関のはたらき」
第6章 国際経済のしくみと貿易の拡大「1.国際経済のしくみと貿易の拡大」
秀光コース1年担当 今田 琢也
【単元】
第5章 現代の経済社会と私たちの生活 「6.金融機関のはたらき」
第6章 国際経済のしくみと貿易の拡大「1.国際経済のしくみと貿易の拡大」
【教科名】現代社会
【生徒数】14名(男8名 女6名)
【使用端末】Surface, iPad
【使用教材】「高等学校 改訂版 現代社会」第一学習社
「グローバルワイド 最新世界史図表」第一学習社
「The Move To Global War」OXFORD
もくじ
《授業概要》
12月の中旬から来年度に向けたIBDPトライアル授業が国・数・英を中心に展開されるのに合わせ、現代社会においてもIBDP Historyの授業を念頭に置いた授業構成を目指すことにしました。来年度以降のIBDP Historyは、二度にわたる世界大戦の時代について詳細に取り扱うカリキュラムを組んでいます。その学習の中で「金解禁」や「金融恐慌」のような用語が出てきますが、特に前者については高校生にはなかなか掴みにくく、従来の世界史Bの授業等でも形式的な理解に留まりがちなものでした。しかし、教材に示したIBテキストの表題となっている通り、戦争へと世界が向かっていった過程を考える際、当時の経済システムを根本から理解しておくことは極めて大きな意味をもつと言えます。また、私たちが生きる社会ではグローバル化の進展が著しいですが、その端緒をこの時代のイギリスによる「国際金本位制」の確立に見出すことも可能です。よって、今回の授業では「金本位制」について、その成立の背景や特徴、後世への影響などを幅広く生徒主体で考察できるよう心がけ、それが世界大戦の勃発にどの程度影響を与えたか考えることを目指しました。
- 資料①:金本位制についてのプレゼンテーション資料(17頁/38頁)/Key Note
※授業後にPDF化したものをGoogleドライブで共有しました。
《授業の展開》
(1)授業実践
現代社会で扱うテーマの中には、DP Historyとリンクすることが可能なものが数多く存在します。この単元の前には「生命倫理」の単元とリンクさせて、ナチスドイツの“T4作戦”(障碍をもった人々への組織的な迫害)を取り扱いました。ユダヤ人迫害だけではないナチスの罪を知り、その凄惨さに衝撃を受けた生徒も多かったように思います。その単元の評価課題の一部で1930年代のドイツ経済についての調査を課し、世界恐慌の影響について考察させたうえで当時の経済システムの学習に移行できるよう工夫しました。
生徒たちはすでに「基本的人権」の単元でピューリタン革命や名誉革命について学んでおり、イギリスが他国に先んじて責任内閣制を確立させた事実を知っています。また、放課後講習にてアメリカ南北戦争の探求を行ったことを通じ、奴隷貿易の独占によってイギリスが莫大な富を得て産業革命を推し進めた事実もある程度学習していました。以上のことを踏まえつつ、まず金本位制の成立が、このような背景のもとにイギリス主導で行われた感覚を掴んでもらおうと考えました。資料①に一部を示したプレゼンテーション資料を用いて、金本位制の概要を説明しました。ただ、いくら小発問があるとはいえ、教師による講義形式の授業では考える力は身につかず、本質の理解まで至らない場合がほとんどです。そこでオンラインホワイトボードMiroを用いて生徒主体の活動時間を確保し、生徒間での整理を促すこととしました。そしてそれらをもとに、帝国主義の時代すなわちパクス=ブリタニカ期の世界を分析し、第一次世界大戦やそれに伴うアメリカの台頭による情勢の変化について考察することを目指しました。(資料②を参照)
- 資料②:金本位制の舞台裏を知ろう(グループディスカッションシート)の抜粋です。
※付箋は実際に生徒が添付したものになります。
【授業をするうえでの工夫】
大人でもなかなか難しい国際経済の仕組みについての学習なので、生徒の苦戦はあらかじめ想定されたものでした。しかし、しっかりとその学習の位置づけや意義について説明したことで、苦戦しながらも食らいついていこうという意欲が感じられました。世界史Bの資料集も活用しつつ、生徒の理解を助けるような追加資料をあらかじめこちらで用意してMiro上に添付しておきました。生徒はそれらを独自の視点から自由に分析したり、更に追加の資料を探してみたりと、自ら知識を構成すべく努力することができていたように思います。
(2)評価
先にも述べたとおり、今回現代社会の単元をもとに金本位制について詳しく取り上げたのは、あくまで来年度のIBDP Historyにおける理解の一助とするためでした。IBDP Historyの重要概念の一つに「連続性」という概念があり、今回得た知識は今後の授業の中で歴史的な「変化」を紐解いていく際のヒントとなることでしょう。そして、より来年度への接続を追及し、今回の内容を評価するにあたってDP Historyの外部評価に準拠したやり方を検討しました。生徒には既に来年度のIBDP Historyの最終試験(外部評価)がどのようなものであるかを説明していたため、改めてガイダンス資料を確認し、問題の指示に従って資料を上手く活用しつつ自らが構成した知識を解答に落とし込むよう指導を行いました(資料③を参照)。
- 資料③:実際に行われた試験問題冊子の表紙(左)と外部評価ガイダンス資料の抜粋(右)
【評価をするうえでの工夫】
ある程度の条件こそありますが、基本的に模範解答というものは存在しません。加点の対象となりうる要素について、IBDPのマークスキームに準拠して作成した規準をもとに採点を行いました。時間配分など、不慣れさから苦戦していた生徒も確認されましたが、授業内容を踏まえて自ら構築した知識を落とし込むことができていました(資料④を参照)。また返却の際には、それぞれの解答の良い点、改善点についてクラスでお互いに評価し合い、全体で高め合うことができるような機会を確保しました。
- 資料④:IBDPの外部試験をもとに作成したマークスキーム(抜粋)と実際の解答例(抜粋)
《IBDPの可能性・オンライン授業の効果》
ここまでIBDPのオンライン授業実践についてご紹介させていただきました。IBDPの学習では、生徒の「主体性」が極めて重要となります。社会科は、どうしても「暗記科目」として面白さを見いだせず苦手意識をもたれやすい科目です。しかし、「変化」「連続性」「原因」「結果」「重要性」「観点」という重要概念をもとに歴史を紐解いていくHistoryの授業では、生徒それぞれが独自の切り口から過去を探求していくことができます。例えば、第一次世界大戦について、「連続性」の切り口から「1914年の戦争の勃発は、1871年から1914年までに起こった出来事の必然的な結果であり、避けることのできないものだったのか」という探求課題を自ら設定し、授業の中でディスカッションをしていくという具合です。必ずしもその問いに正解はなく、生徒は自由な発想が可能となります。教師が模範解答を教示し、生徒がそれを覚えて全員テストで高得点をとるという「暗記科目の授業」とは決定的に異なるのです。私はその点で、IBDPの教育に大きな可能性を感じています。知識の定着にこそ若干の不安はありますが、予習や復習のやり方をレクチャーし、教師が適切な支援を行うことで補うことができるはずです。そして、オンライン授業によってもそのような生徒主体の授業を対面と変わらず行うことは十分可能であると考えます。より充実した満足度の高い授業を目指して、引き続き研鑽に励んで参ります。