仙台育英学園高等学校
校長 加 藤 雄 彦
 

 平成17年5月22日午前4時15分ごろ「第11回さつき祭ウォークラリー」中に発生した暴走RV車による交通 事故は創立100周年記念行事として参加していた第1学年生3人のこれからの人生を奪い、ご家族はじめご親族の方々に到底、言葉では言い表せない程の苦しみを与える結果 となってしまいました。掛け替えのないお子様をお預かりし、将来の夢に向けて、安心して3年間の高校生活を過ごしてもらうことが本学園の本来の目的です。しかし、あの惨憺たる事故現場で彼らを救うことができなかったこと、自宅で二度と目を覚ますことのない生徒の素顔と対面 しながら自分が生きていることのもどかしさを感じ、ご家族に何も申し上げることができなかったことを時間が経てば経つほど悔やまれてきます。

  学校行事を楽しみにしていた齋藤 大君、三澤明音さん、そして細井 恵さんは級友たちと協力しあいながらクラスの出し物を成功させ、前夜祭を盛り上げたようです。事故当日は日の出前にもかかわらず元気に起床され、大人顔負けの責任感で長距離ウォークを完歩しようと同じ班の仲間たちを励まし、多賀城校舎を第一陣として元気に出発していきました。

 ウォークラリーはもちろんのこと、校外で実施されるすべての学校行事に関して絶対安全ということはあり得ません。だからこそ、事前準備を怠らず何回も何回も確認します。仮に、これらの作業と安全性の審査を外部の方々にご依頼しても、帰ってくる答えはひとつです。「校外の学校行事は危ないから一切実施しないのが無難であり、余計なことは何もしないことが一番の得策である」という考えです。校外には危険が一杯でそれらと接触させないよう生徒たちを守り、校内でしっかり管理し、仲間同士のいがみ合いもないように高校生活を送らせることこそ、究極の安全対策だからです。

  いままでの中学校生活から大人になる第一歩としての高校時代をこのような管理・効率優先の学校経営に基づいた校風のなかで送らせたくないという考え方でいままでやってきました。その結果 、本学園で学ぶ生徒たちは愛校心を育みながら、「互いに譲り合い、磨き合い、鍛え合い、戒め合い、許し合い、人や物に感謝し、率先して事にあたり、世のため人のために力を尽くす」ための自力をつけてきたと信じております。それは、大変革期の日本、難題山積の国際情勢に堂々と立ち向かっていける国際人の育成に力点を置いてきた本学園の教育目標だからです。

  今回の事故を受け、校内外の学校行事に関する一斉点検を始めています。もちろんウォークラリーも含めてです。特に、ウォークラリーは来年度からスプリング・チャレンジに改め、宿泊をともなわない校内スポーツ大会に変わる予定です。それぞれの学校行事は相互に関連し、一貫した教育目的があります。しかし、具体的な教育方法には普くよろずのやり方があると思います。 学校行事の日時の設定、ルートの選択、活動拠点の選別はその範疇であり、保護者からの指摘は謙虚に受け止め、分析と反省の上、再構築していかなければなりません。そのような検討過程を経て、「新入生に本学園の建学精神を理解させ、生活信条の実践のため、仲間同士の連帯と集団行動の意義と達成感を会得させる」目的に対応できる方法を校内で開発していきます。その見直しの中には、従来の生徒の安全管理に関する基本指針と実践方法そして支援体制も含まれます。
 
  さらに、万が一の際の保護者への緊急連絡をはじめ危機管理体制の見直しとそれらに関連した職員研修もその対象となります。今回の事故後の対応が保護者に大いなる疑問と傷みを与えてしまう結果 となったことは至誠を尽くすことを建学精神としている本学園にとって遺憾としかいいようがありません。建学精神を護り、生活信条の実践に努めながら、3人の命がどれだけ尊く、そして重たいかということを今ある生徒とともに見つめ、問い直していかなければならないと決心しています。

  本年は5月31日の「お別れの会」の翌日を「I−Lion Day」すなわち、安全と安寧の日といたしましたが、来年以降は本来の5月22日になります。本学園全体が3人の犠牲者の冥福を祈り、追悼する行事を生徒会が中心となって実施されることと思います。同時に反社会的行為としての飲酒運転を撲滅する運動を生徒・保護者・同窓生たちとともに地域社会で改めて展開し、飲酒運転の防止と厳罰化した取締りに関する県条例の制定を県議会はじめ警察や関係機関に働きかけていかなければなりなせん。3人の犠牲者にはどれだけお詫びを申し上げても、彼らは戻ってきてくれません。彼らが今、何を考え、どう思っているのか、問いかけながら進めていく考えです。

  今回の事故で怪我をされ、長期間入院されていた4人の生徒たちには本当によくここまで耐え、辛抱してきたと感心しています。その間のご家族に科せられた負担と心労を思うとき、不安と非日常的な生活を強いてしまったことに心が痛み、申し訳ない気持ちで一杯になります。怪我の回復が進み、いつもどおりの元気な姿で仲間たちと学園生活を送られるよう復帰を期待しています。本人や保護者には今後心配される後遺症のこと、将来への不安など数々の困難が立ちはだかっています。軽傷だった生徒を含め、18人の治療費負担は継続していきます。さらに、完治されても心のケアーを必要とされる生徒・保護者のために心理判定員の資格を持ち、医療現場やスクールカウンセラーの実務を経験されている方を本学園に迎えられるよう努めています。並行して、宮城県および県警の支援も継続して依頼しており、実際にご指導いただいていることもお伝えします。

  5.22交通事故は本学園に係わるすべての生徒・保護者・同窓生そして職員に大きな衝撃と深い悲しみをもたらしました。この事故は加害者が飲酒による運転がいかに危険な行為であるのか、どのような重大な結果 を生むのか、その結果がどれだけの悲劇に発展していくのか、という社会人として当たり前の認識が大幅に欠落していたことに起因します。日本は法治国家としてこのような犯罪行為をたやすく認める社会環境にはないと思っています。しかし、現実には大勢の第1学年生に対して凶器ともなりうる自動車で彼らの人生を奪い、あるいは傷つけ、さらに人間社会を構成する上で根幹となる「信頼・信用」を揺さぶりました。青年期の多感な時期にこの恐るべき暴挙の被害者として生徒たちを巻き込んでしまったことは痛恨の極みです。さらに、保護者のお気持ちを思う時、我々職員は自信を持って、信頼に応える教育現場の回復を努めなければなりません。保護者のみなさんにはご心配をかけてきたことをお詫びし、明日の本学園を築いていくためのご支援をいただく所存です。

  本学園の5.22交通事故後の対応に関連して、その基本的な考えをお知らせし、加えて、仙台地方裁判所102号法廷にて行われた昨日の初公判の内容をお伝えします。なお、複数の職員が初めて裁判記録を速記しましたので、十分でない部分があることをご容赦いただきたいと思います。

(平成17年度第3回校務・事務運営委員会 8.10)
 
 
初公判の内容

公判手続の流れ
 
 
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