被害者のご夫婦の呼びかけを聞いて、
私たちにも何かできるのではないかと...


 1月27日、土曜日。仙台育英学園高等学校生徒会の5名が、東京都台東区のJR上野駅前で、飲酒運転根絶署名活動を行いました。
 生徒会が上野へと訪ねて署名活動を行ったのにはいきさつがあります。きっかけは1月中旬に放映されたテレビ番組。1999年11月、東名高速道路で起きた飲酒運転による事故をテーマにしたもので、飲酒運転者の大型トラックによる追突事故で一度に2人の娘を奪われた両親の苦悩と、その後の飲酒運転撲滅と法改正に向けての運動の姿をドキュメンタリーのドラマとして再現した番組です。
 「この番組の最後で、事故の被害者である井上さんご夫婦が飲酒運転撲滅の署名を呼びかけていました。私達はこの番組を見て、とても心を打たれました。そして、井上さんご夫婦の呼びかけを聞いて、私達も何かできるのではないかと思ったのです」(生徒会長・菊地恵莉)
 
背中に『絆』の文字が書かれた
メンバー、ボランティアの方々と...


 5人は1月27日朝にJR仙台駅に集合し、午前10時前、JR上野駅に到着。上野公園への入り口には井上さんご夫婦ほか、黄色いTシャツの背中に『絆』の文字の『飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める被害者遺族・関係者全国連絡協議会』のメンバーおよびボランティアの方々がすでに到着しており、5人は飲酒運転根絶の署名簿を手に、呼びかけを開始しました。
 土曜日の上野公園は午前10時を過ぎると、急速に人の数が増えてきました。慣れない場所で初め5人は少し戸惑いの表情を浮かべていましたが、マイクを手に道行く人たちに訴える『被害者遺族・関係者全国連絡協議会』の方々のパワーに触発されてか、すぐに5人にもいつものような積極的な表情が戻ってきました。
 「私達は仙台育英学園高校からやってきました。私達は2年前、学校行事であるウオークラリー中に3人の仲間を飲酒運転による事故でなくしました。3人の死を無駄にしないためにも私達は今、飲酒運転根絶の運動に参加しています。みなさんのあたたかい署名をお願いいたします」の言葉が、上野駅前の人波の中に響き渡ります。
 休日の上野公園、上野動物園や美術館、博物館へと向かう若い家族連れやお年寄りご夫婦、若いカップルが足を止め、署名簿のペンを取ってくれました。
 
署名が集まることで世の中の飲酒運転への
考え方も変わってくると思います


 署名してくださった方々の言葉をいくつか紹介しましょう。

「早朝に国道で起きた事故ですね。ニュースで見て知っていました。お酒を飲んで運転して、それで事故を起こすなんてとても信じられません。絶対に起こしてはならない事故、やってはならないことだと思います」(埼玉県川口市から 40代女性)

「お酒を飲んでも決してクルマの運転をしないように、自分自身への戒めの意味も込めて署名しました」(千葉県柏市から 30代男性)

「私もクルマを運転しますし、子供もいます。ですから人ごとではありません。署名がたくさん集まれば世の中の事故や飲酒運転に対する考え方も変わっていきます。だから、署名活動というのはとても意味のあることだと思います」
「僕はテレビ番組を観て、事故にあった家族の人たちがとてもかわいそうだと思ったし、事故のことがすごく怖かった。とても悲しかった。だから、こんなことは起きてほしくないと思う」
「私たち一人ひとりにも事故の被害者になったり加害者になったりする可能性はあると思うのです。だから事故のための法整備というのはとても重要だと思います。飲酒運転やひき逃げは絶対になくさなければとういう思いで、今日は家族でここまで署名に来ました」
(千葉県船橋市からの家族、父と小学生の男の子と母)

「お酒を飲んでクルマを運転することは絶対にいけないことなのだけれど、現実はいまも飲酒運転があとをたたない状況ですね。これに対しては、飲酒を感知して運転させない装置など自動車自体を変えようとしているようですが、そういうことも必要だと思います。あとは厳罰ですね。お酒を飲んで運転するとどれだけの罪になり、罰を受けなければならなくなるか、クルマを運転する人のすべてがしっかりと認識するようにすることです」
「小さいときからの教育も必要なのではないかと思います。子供のときに、お酒を覚える前から“お酒を飲んでクルマの運転することは絶対にいけないこと”ということを教え込むことが必要なのではと思います」
(神奈川県横浜市から 60代ご夫婦)
 
これまでの枠を飛び越えていく
第一のステップになったのでは...

 署名活動はその日の午後5時まで続きました。この日集まった『飲酒運転根絶』への署名は7,670人分。
 署名に協力してくださった方々の数に加えて、「事件は全国の人の心へととどまる話でなくてはならないと思います。全国の人達に訴えを聞いてもらえるということでは一歩、これまでの枠(仙台・多賀城での活動から)を飛び越えていく展開の第一ステップになったんじゃないかなと思います」との言葉を井上さんからいただけたことが、5人にとって、今後の活動に向けての大きな励みとなりました。
 「意思を伝えることの大切さを今日あらためて知りました。今日学んだことをみんなで行動に表して、飲酒運転がゼロになるまでやり続けていきたいと思います」(菊地恵莉)
 なお、『飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める被害者遺族・関係者全国連絡協議会』の署名活動は翌日の28日・日曜日にもおこなわれ、この日には女子卓球部の部員が上野へと駆けつけて署名活動を行い、2日間で16,000人の署名が集まりました。