第5号
 

 
これからの十年


学校法人 仙台育英学園 副理事長
秀光中等教育学校 仙台育英学園高等学校

校長 加藤 雄彦
 
 夏の強い日差しが深緑の欅に遮られ、木陰で生徒たちが昼食の弁当をひろげて、仲間と談笑しながら食べている光景を見ていると、昨年の5月22日の出来事とあまりにも不釣合いでどちらが現実でどちらが幻なのかと疑ってしまいます。

 しかし、いずれもが本当であり、至福と悲嘆が交互に織り成す社会の営みをしっかりと受け止めていかなければならないことを認識させられます。

 5・22以来、今日に至るまで仙台育英学園に係わる職員をはじめ関係者のみなさんには「忍耐」と「奉仕」と「互譲」を暗黙とはいえ、殊の外お願いしてまいりました。

 事故に係わる対応は当然として、入学試験問題の盗用に関することなど、特に現場の責任者たる副校長・教頭先生方には大変な負荷をかけてしまったと思います。同様に、法人局職員には休日返上の異常な状態が連続していたことを憂いてはいましたが、立ち止まることのできない現実と沈着冷静に向き合っていただきました。

 さらに、平成17年度ほど法改正とそれに伴う本学園の諸規則と組織の改編を強いられた年は過去なかったと思います。学園経営に大きく影響する『私立学校法』・『同施行規則』の改正あるいは「学校教育法」に係わる設置基準の見直し、さらに『高年齢者雇用安定法』による雇用制度の改正、アスベスト・防災に対する緊急対策と組織・運用方法の再構築…。

 「人事を尽くして天命を待つ」という私の好きな言葉がありますが、山積する課題に臆することなくご苦労いただいたみなさんに心から感謝申し上げます。本当に有難うございました。

 さて、世の中に目を転ずると、名門『国画会』の重鎮である洋画家和田義彦氏がイタリア人画家アルベルト・スギ氏の作品と酷似した絵画を発表し、公の場に和田氏の作品は出展されなくなったこと、村上ファンド前代表の村上世彰容疑者が「小泉改革」による規制緩和を逆手にとって日本の証券市場と金融制度を弄んだことなど、自信に満ちて自らを疑うことのないまま暴走し、結果 「プロ中のプロ」のひ弱さと無責任さを露呈した事件が相次いで起きています。偽メール問題の民主党の永田寿康氏しかり、ライブドア前社長の堀江貴文被告しかり、強烈な挫折体験がない中で究極の自己中心主義的行動をとった末路を我々は謙虚に分析し、自己顕示欲がなせる過ちを見過ごしてはならないと思います。

 振り返ってみると、平成17年前後は戦後の変革期と同様の潮の変わり目ではないかと推測できます。いままでの是とされていた価値観が非となり、日本人のライフスタイルも行動様式も変容したと指摘されるかも知れません。

 しかし、本学園は『至誠力行』を理念として『進取』の旗を振りかざし、理想の彼岸に向かって前進していかなければなりません。そうでなければ過去百年の先人たちの遺してくれたものを投げ捨てることになりますし、昨年来の苦労も水の泡になってしまうからです。本学園が社会から期待され、存続を認めていただく限り、我々は創立者加藤利吉先生の建学精神の実践に努める責務があると思います。

 今後、創立百十一周年記念事業をはじめ、これからの十年間にたくさんの栄光と障害が本学園に訪れようとも『質実剛健』の気概をもって冷静に謙虚に立ち向かえる「逆転の仙台育英」を目指してみなさんとともに歩んでいきたいと考えています。
職員が見守る中で5.22メモリアルストーン除幕式が行われた(2006年5月22日 多賀城校舎)
 
 
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