永年目指した夢舞台へ
仙台育英書道部 2018/2019 書の甲子園優勝への道のり

キラリ★SWEAT & SMILE VOL.07 仙台育英学園高等学校 書道部

 

“書の甲子園優勝”への道は、
顧問・渡邊先生の高校生時代から始まっていた

毎年、多くの書道展において多彩な賞を受賞し、着実な活動を続ける本校書道部。平成30年度(2018)も例年をこえる活躍ぶりをみせ、ついに長年の夢であり目標だった“書の甲子園”(第27回国際高校生選抜書展)での“団体の部 全国優勝”を果たした。国内外の845団体1万4458出点の中からの受賞という快挙だ。

国際高校生選抜書展での団体優勝にたどり着くまでには本校書道部の歴史と交わる不思議な経緯がある。現在、書道部顧問の渡邊章紀先生が話してくださった。

「仙台育英書道部は、私が本校の2年生だった時に学校にお願いして仲間の生徒33人を集めて創部した部。発足当時は部室もなく、空いた教室で稽古を重ねました」

その1年後、3年生の渡邊先生は、その年からスタートした毎日新聞主催の宮城県高校選抜書展に応募し、最優秀賞を受賞した。

「この県高校生選抜書展は、その翌年からスタートした国際高校生選抜書展の“プレイベント”の意味合いもあるのです」(渡邊先生)

いわば、“書の甲子園”の名で呼ばれる国際高校生選抜書展での受賞に向けての仙台育英書道部の道のりは、渡邊先生が仙台育英の生徒だった時代の第1回目の県高校生選抜書展での最優秀賞受賞から始まっていたのだ。

仙台育英 書道部顧問の渡邊章紀先生

 

2度の準優勝、
あと、1歩の悔しさの末に

渡邊先生は大学を卒業後、教員として仙台育英に戻り、書道部の顧問として書道部生徒の指導に当たってきた。稽古の励みとして積極的にさまざまな書道展に応募することを勧めながら、結果、部員生徒たちはこれまで多彩な賞を手にしてきた。2018年度でいえば、団体での賞に限っても、第28回になる県高校生選抜書展で4年連続14回目の団体優勝。第67回大正大学書道展では9年ぶり3回目の団体賞、第66回川開書道展で2年連続2回目の優秀団体賞などを受賞している。そして2018年11月、ついに念願の“書の甲子園”での団体の部・全国優勝の知らせを手にした。

実は、この優勝への道のりには過去に2度の“あと1歩”の悔しさがあった。

「平成23年(2011)3月に東日本大震災があった年度(平成22年度)に初の団体準優勝を手にしました。そして、平成28年度(2016)に再びの準優勝。2度の準優勝に、“優勝まであと一歩” の涙をのみました。そして今回、ついに優勝へとたどり着くことができたのです」(渡邊先生)

 

県高等学校書道展覧会の成果と
“2019さが総文”への切符

11月に“書の甲子園 全国優勝!”の報を受け、翌年2月に大阪で開催される授賞式に向けて部員たちは日々の稽古にいっそうの力を入れて臨んだ。授賞式の会場では、毎年、新聞やテレビでのニュースにもなる“受賞パフォーマンス” があるからだ。

全力を傾けていた書道部員に、絶好調の活躍ぶりをさらに後押しする受賞の知らせが次々に舞い込む。

12月に入って宮城県美術館県民ギャラリーで開かれた第67回宮城県高等学校書道展覧会では本校部員が、

第一部(漢字)

第二部(かな)

第三部(漢字仮名交じりの書)

第四部(篆刻・刻字) のすべての部で推薦(最高賞)、特選、金賞などを受賞したのだ。 12月9日、同ギャラリーでの表彰式に臨んだ。

さらに、この書道展ではもうひとつの大きな“特典”が待っていた。『全国高等学校総合文化祭』への出場への切符だ。

「宮城県高等学校書道展覧会は、運動部でいえば“ 県総体”。県の代表者は“全国大会”である『全国高等学校総合文化祭』出場することができるのです」(渡邊先生)

県の代表枠5人のうち、本校書道部員が3人も入った。 5人のうち3人とは、本校書道部にとってもこれまでにない快挙だ。『全国高等学校総合文化祭』は2019年7月、佐賀県内を会場に開催(2019さが総文)される。

 

明けて正月、部員17名が
東京での書初め大会に挑戦

本校書道部は歩を休めることなく、さらなる大会への挑戦を続ける。年が明けて正月、部員17名が東京に出向いた。都内で開催される二つの大きな“ 書初め大会” に出場するためだ。1月5日、日本武道館を会場に『第55回全日本書初め大展覧会席書大会』が開催され、翌6日に代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで『第9回全国青少年書き初め大会』が行われた。

5日に日本武道館で開催された『全日本書初め大展覧会席書大会』は、決められた場所で指定された時間内に書いた書道作品によって競う大会。

「指定された用紙2枚に、前もって発表されている課題を24分間で清書します。限られた時間内でいかに日頃の自分の実力を出し切れるか。これが勝負です」と、本校書道部キャプテンの細川和紗くん(フレックスコース2年・南中山中出身)。

予選を通過した幼稚園生から一般の参加者が年齢層などで区分け・審査され2月に受賞者発表・表彰式が行われる。

そして、翌6日の『第9回全国青少年書き初め大会』。この大会は午前中2時間の時間が与えられ、自由課題に取り組む。事前に課題を考え、それを2時間で仕上げる大会だ。

この東京での大会でも、仙台育英書道部は驚くべき成果を上げた。

 

全国青少年書き初め大会で
全日本高校芸術教育研究会会長賞

『全国青少年書き初め大会』の結果は即日発表され、センター内にあるホールで表彰式が行われた。そこに輝かしい位置に仙台育英学園高等学校書道部の名があった。団体として、全日本高等学校芸術教育研究会会長賞。そして、個人の部では、英進進学コース3年(成田中出身)の三浦朱莉さんが『全日本高等学校芸術教育研究会会長賞』、特別進学コース1年(秀光出身)の佐々木菜津子さんが『審査委員奨励賞』に選ばれていたのだ。

「500人を超える参加者が一堂に介した会場で2時間、前もって練習した書を限られた時間の中で仕上げていきます。“時間との戦い”です。そして、書き上げ、最後に印を押して提出するまで、すべて一人。途中、誰かの励ましを受けたり、アドバイスを求めることもできません。“孤独との戦い”でもあります。私がその日書いたのは8行4段に及ぶ草書の書譜。最後には間に合うかどうかの不安が頭の中を駆け巡るばかりでした」(佐々木菜津子さん)

佐々木さんは、前年、2018年12月の第67回宮城県高等学校書道展覧会でも漢字の部で特選を受賞している。

 

武道館での席書大会で細川くん、
2年連続の大きな賞を受賞

そして、正月の“書初め大会”から2週間ほど過ぎたある日、さらにうれしい知らせが書道部に届いた。正月5日に日本武道館で開催された『全日本書初め大展覧会席書大会』結果の内々の通知だ。届いた書類には『文部科学大臣賞 細川和紗』の文字が記されていた。

「この知らせには本人だけでなく、私や部員たちも“書の甲子園 全国区優勝!”に負けない驚きとうれしさに沸きました。本人は前回の大会で『日本武道館会長賞』を受賞しています。2年連続の受賞。それも、内閣総理大臣賞、日本武道館大賞、文部科学大臣賞、日本武道館会長賞と続く大きな賞のうちの3番目と4番目の賞を2年連続で受賞したのです」(渡邊先生)

受賞の感想は、と細川くんに尋ねてみると、「小学生の時にあまりにも字が下手だったから母に書道教室にでも通ったらと言われて書を始めたのですが、こんな大きな賞にまでたどり着けるとは…。信じられません。僕自自身、いまだに満足できるものが書けているとは思っていません」と謙虚な答え。

「渡邊先生からは“結果を求めてはならない”とつねに言われています。賞を追い求め、それを意識したりせず、ただひたすら良い作品を書き続ける。それを徹底して稽古に励んでいれば、何かしらの結果はついてくると。その“結果”が、今回の受賞なのかもしれません」(細川くん)

作品の“質”をあげることにひたすら心を砕きながら、線ひとつひとつの細かいところまで気を遣って、しっかりした作品作りを心がけていく。他からの“評価”があるとすれば、それはあくまでその結果なのだ。

「書は茶道においての“所作”に似ています」と渡邊先生は話す。「心構えや気遣いが、書においてはすべて線に出てくるのです」

 

大切なのは挑戦する意識、
そこから書道の楽しさ、喜びが生まれる

「書は茶道の所作に似てる」との渡邊先生の言葉。これは仙台育英書道部で続いてきた日々の稽古での“心構え”の基本といえるのかもしれない。

本校書道部の先輩である小湊陽先生。小湊先生は、かつて仙台育英生だった時代、書道部で2年時に初の“書の甲子園 全国準優勝”を体験し、自身も準大賞を受賞。その他、数々の賞を取り、大正大学に進学。表現学部で4年間書道に打ち込んだのちに、国語の教師として2016年に秀光中等教育学校へ。現在は、昨年から正式な認可校となった国際バカロレアのMYP(Middle Years Programme) に則った新しいかたちの授業を展開している。小湊先生は仙台育英生時代を振り返って、こう話す。

「書の専門性を極めるというより、書道を通じてどのように人間性を高めていくか、取り組みをしていくかといったある種“芸事”のような部分もありました。ただし、きれいな字を書けるようになりたいと思うだけが目標なら単なる“お習字”になってしまいます。そこが書道の難しいところであり、面白いところでもあります」

そして、こんな例を紹介してくださった。

「AIで筆を持って字を書くロボットを見たことがあります。正直、うまいと思いました。これだけ書けたら人間は必要ないのではと思える作品もありました。でも、大切なのはうまいか下手かではありません。大切なのは“意識”だと思います。自分からこの作品を書こう、挑戦してみようと思えるのは人間だけです。AIが人間に“芸術”という分野で勝てないのはそこだと思います。前向きな意識から作品は生まれます。気持ちを大切にしてほしいのです。ときに堅苦しく見られがちな書道ですが、そこから“楽しい”という気持ち、喜びは生まれます。その“やっていて楽しい”という時間を大切にしてほしいのです」

小湊陽先生(仙台育英 英進進学コース平成24年3月卒業、現在は秀光中等教育学校教師)

小湊陽先生(書の甲子園 全国準優勝当時の写真:後列右端)

 

仲間がいたから辿り着けた
心から感謝を伝えたい…

2019年2月3日、部員24人が大阪へと向かった。『書の甲子園2018』の表彰式に出席のためだ。

式は毎日新聞大阪本社オーバルホールで行われた。壇上に並んだのは現キャプテンの細川和紗くんと前キャプテンの伊澤りほさん(外国語コース3年・岩手大宮中出身)。続いて9度目の東北地区優勝の賞状を藁科あおいさん(英進進学コース2年・西多賀中出身)が受け取り、伊澤さんが団体優勝の謝辞を述べた。

『個人の部』表彰式では、文部科学大臣賞の小倉風羽さん(特別進学コース2年・南光台中出身)、それに次ぐ大賞の荒みさきさん(英進進学コース3年・鹿島台中出身)、準大賞の中島結衣さん(特別進学コース3年・仙台第二中出身)がそれぞれ壇上で賞状を受け取った。表彰式の中では小倉さんによる席上揮毫も行われた。

表彰式に続いては、部の代表14人による晴れの“書道パフォーマンス”。育英カラーの紺の着物に黄色い襷の袴姿、腕にもブルーとイエロー柄のリボンを巻き、『ユー・レイズ・ミー・アップ』の曲に合わせて3.5m×6mの紙に力強く「ありがとう」と、感謝の文字を書き上げていった。

永年目指した夢の舞台
一度近づき離れたところ
誰にも見せない泪もあった
多くの出逢いや支え
仲間がいたから辿り着けた
心から感謝を伝えたい
ありがとう

書道部員それぞれが最高に光り輝いた1日だった。