秀光オーケストラ部、2020
“困難の時”のなかで...

キラリ★SWEAT & SMILE VOL.10 秀光オーケストラ部、2020 “困難の時”のなかで... 秀光オーケストラ部

 

春、夏のコンサートに音楽祭、
恒例行事のすべてが中止に

2020年、春、日常が一変

平成8年(1996)の秀光開校から5年目、平成12年(2000)に秀光オーケストラ部は誕生している。毎年開催されてきた秀光祭でメインの舞台を飾るのはもちろん、『高校音楽祭』『管弦楽祭』への出場、『定禅寺ストリートジャズフェスティバル』への参加、そして2年前から始まった障害者施設でのボランティア演奏…学校の外に出ての演奏も積極的に続けて来た。また、後述するが、プロ演奏家とのジョイントコンサートも部の誕生時から毎年実施されてきた。

しかし、今年は状況が一変。新型コロナウイルスの流行により、すべてが普段とは違ってしまった。

秀光最大の恒例イベント、
秀光祭の行方は…?

プロ演奏家とのジョイントコンサートももちろんなし。加えて、個々の技量を上げることを目的として毎年3月に行われてきた少人数のアンサンブルを中心とした『スプリングコンサート』もなし。7月の新人部員の初の発表の場である『フレッシュコンサート』も中止になった。

そして、秋に行われてきた、秀光オーケストラ部の一大イベントである『秀光祭』も中止に…?

 

Photo/令和元年(2019)の秀光祭ステージでの演奏風景(宮城野校舎ゼルコバホール)

秀光オーケストラ誕生の種子は
開校当初から撒かれていた

秀光開校の年に弦楽部がスタート

秀光オーケストラ部の今を語る前に、部誕生から現在へと至る道のりをたどってみよう。

秀光は“Language, Music & Science”を教育の軸として、開校時から“Music”の実践として、フルートやホルン、トランペットなどの管楽器の演奏技術を学ぶ時間が音楽の授業の中に取り入れられてきた。

一方で開校と同時に、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロなど、弦楽器のみによる“弦楽部”もつくられている。オーケストラ部誕生の“種子”は秀光開校の年、平成8年(1996)に撒かれていたのだ。

開校5年目、弦と管が合体して

音楽の時間での経験を通して演奏する楽しさをおぼえてくると、授業で管楽器を学ぶ生徒の心の内に、“より音楽的なことに挑戦してみたい”という気持ちが生まれてきた。その結果として、部活動として吹奏楽部をつくりたい、という要望が出てきた。

「それなら“管楽器と弦楽器とを合体させてオーケストラ部を”となり、開校当初から期待されてきた秀光オーケストラ部創部へと発展しました」

開校時から音楽の授業とオーケストラ部の指導を担当されてきた牛渡純先生は、“秀光オケ部誕生”のいきさつをこのように話す。秀光開校、弦楽部創部から5年目のことだ。

 

楽しく、和気あいあいと…
ただ、理想は高く

音楽を通して自己表現力、
協調生や思いやりの心を

秀光は音楽専門の学校ではない。したがって音楽の授業に楽器演奏が取り入れられているとはいえ、演奏することの基本は、「楽しく」「気楽に」「和気あいあい」と…。“音楽を通して自己表現力とコミュニケーション能力を磨き、アンサンブルなどの体験を通して他者との協調性や思いやりの心を育てる”というのが秀光の音楽教育に対する基本的な姿勢だ。

ただし、オーケストラ部は「楽しく、気楽に」だけでは終われないところがある。それは、毎年の秀光祭では、“祭”を彩る中心的存在でなければならないこと。そして、まだ弦楽部だった頃からスタートした“プロ演奏家とのジョイントコンサート”という毎年恒例の大きなイベントが待っているからだ。

毎年恒例となったプロの演奏家との共演

米国ニューヨークを拠点に活動するプロのオーケストラ、ニューヨーク・シンフォニックアンサンブル(NYSE)とジョイントコンサート。これがプロの演奏家との共演の始まりだった。秀光開校4年目、平成9年(1999)のことだ。

このジョイントコンサートは毎年の恒例行事として、平成25年(2013)まで14年間にわたって実施された。平成18年(2006)には『仙台育英学園創立100周年記念』として、宮城県民会館(東京エレクトロンホール宮城)で1000人を超える観客を前に演奏した。

その後もプロの楽団とのジョイントコンサートの企画は続き、仙台フィルハーモニー管弦楽団や山形交響楽団との共演(ジョイントコンサート)が毎年、恒例行事として行なわれてきた。

 

憧れを憧れに終わらせることなく
限られた練習時間の中で

プロとの共演に耐えられる
演奏レベルを目指して

「プロの演奏家と共演するステージを毎年持つとなれば、それに耐えられるだけの演奏レベルのアップをめざす必要があります」と牛渡先生。オーケストラ部の前身である弦楽部の時代から、月1回ほどのペースで仙台フィルのメンバーを講師に招いてのレッスンがおこなわれている。同じ時期から大崎地区の施設を借りての練習合宿がスタート。これもオケ部の恒例イベントとして毎年続けられている。

お楽しみに加えて
クラシックの楽曲に挑戦

ジョイントコンサートや秀光祭で演奏する曲目としては、必ずクラシックの楽曲が取り上げられている。

「ディズニー音楽やポピュラー音楽もいいのですが、“お楽しみ”だけで終わらせたくない。部員たちからも“ベートーベンのシンフォニーに挑戦してみたい”といった声が上がって来ます。憧れを憧れに終わらせずに、限られた練習時間ながら毎年、ベートーベンやモーツァルト、ドボルザーク、そしてシベリウスなど、さまざまなクラシック作曲家の楽曲にも挑戦してきました」(牛渡先生)

 

窓を開け、“3密”を避け、
夏の暑さに耐えながら

オンラインで秀光祭!

そして今年、春の『スプリングコンサート』、夏の『フレッシュコンサート』、プロ演奏家とのジョイントコンサート等、すべての演奏の機会を断念せざるを得なかった。もちろん、『高校音楽祭』『管弦楽祭』も。しかし、7月、思いがけない朗報が飛び込んできた。「秀光祭決行!」のニュースだ。

新型コロナウイルス流行の中で、通常どおりの秀光祭を開くことは難しい。しかし、今年は秀光初の試みとして、秀光祭をオンラインで、YouTube上で行おうということになったのだ。公開日は10月3日に、収録はその3週間前の9月下旬。気落ちしていた部員たちの心に、明るい光が灯った。部員たちは恒例の一大イベントに向けての練習を開始した。

築き、継続してきた夢や憧れを絶やさずに

練習は“3密”を避け、大きな扇風機を回し、窓を明け放った教室内、夏の暑さの中で続けられた。ゼルコバホールのステージ上での小編成での練習も互いの距離をとりあいながら…。

*  *  *

初の試みである“オンライン秀光祭”での発表をめざして練習に励んだ部員たち、彼らの心の内は…。入部した理由や、オーケストラ部で演奏することの魅力は、楽しいこと、やりがい。そして活動を通して得られたものは、未来への展望…。それぞれについての思いを語ってもらった。

 

Question 1 入部の理由は...

  • 小学校6年生の頃に秀光祭を見に行きました。そこでオーケストラ部の先輩を見て、自分も入りたいと思いました。(髙橋 2S1 汐見小出身)
  • 参加した理由は、①楽器をずっと演奏してみたいと思っていたから②人数が多くて楽しそうだったから③部活動紹介の先輩がたの演奏がかっこ良かったから。それらが入部の理由です。(吉冨 3S1 塩竈第三小出身)
  • 今まで触れたことのない弦楽器があって、弾けるようになりたいと思ったからです。(松本 3S2 矢本西小出身)
  • 私は一度も楽器を弾いたことはなかったのですが、友達に誘われ部活体験をして、管楽器と弦楽器を一通り体験しました。その時にもっと弾きたいと思ったのがコントラバスでした。しかし、楽譜を読めなかったので迷いましたが、今考えると入部して良かったと強く思っています。(久道 2M1 下増田小出身)
  • 入学式のオーケストラ部の演奏に圧倒されたのが一番の理由です。始めは初心者には難しいかなと思いながら見学会に参加しましたが、そこで先輩方のほとんどが中学から楽器を始めたと聞き、自分にもできるかなと思い、入部を決めました。初めて聞いたオーケストラの繊細で力強い演奏は本当に胸が高鳴りました。(佐々木 2M1 鹿妻小出身)

学園創立100周年記念 ニューヨーク・シンフォニック・アンサンブルとのジョイントコンサート(2006年7月11日)

 

Question 2 秀光オーケストラの魅力は...

  • いろいろな学年、高校生の先輩などとも関わることができて、皆で1つの音楽を作り上げることができることが魅力だと思います。(髙橋 2S1 汐見小出身)
  • 部員の1人として秀光オーケストラの魅力を感じるのは、基礎練習をきちんとすることです。(菊池 2S1 蒲町小出身)
  • 1つの曲で弦の音と管の音が良く合ったときの達成感が魅力です。(永井 2S1 向陽小出身)
  • 中学生と高校生が一緒に部活をするというのは珍しいですし、魅力だと思います」(本田 2S2 秋保小出身)
  • 管と弦の全員で合わせて、ぴったり合ったときに鳥肌が立ちます。(澤口 3S2 汐見小出身)
  • 秀光の特色である「Music」を一番楽しめる場所であるということ。自分が希望する楽器に熱中することができ、時には仲間と切磋琢磨しあいながら、1つの音楽を作り上げていく。これが一番の魅力というか、知ってほしい部分です。(冨士原 2M1 釜小出身)
  • 弦楽器しか出せない魅力、管楽器しか出せない魅力が重なって1つのハーモニーを奏でる瞬間に一番気持ちが高まるところです。そして秀光は人数が少ない分1人1人の音がより大切になるし、ほかの人の息の吸う音も聞こえるので一体感を本番ではひしひしと感じる点です。(佐々木 2M1 鹿妻小出身)

仙台フィルハーモニー管弦楽団と秀光オーケストラとのジョイントコンサート(2014年10月18日・宮城野校舎ゼルコバホール)

 

Question 3 楽しいこと、やりがいは....

  • 新しい曲をもらったりした時に、音符を読んで弾いている時が楽しく、またやりがいを感じるのは、皆と合わせをして、きれいにはもっていたりしたときです。(髙橋 2S1 汐見小出身)
  • 曲を練習していて、音程を合わせられたときに、やりがいを感じます。(菊池 2S1 蒲町小出身)
  • 一番楽しく感じるのは、練習している曲が上手に演奏できたときです。また、発表会などで曲を演奏しているときにやりがいを感じます。(本田 2S2 秋保小出身)
  • 楽しいのは、中高生が一緒に活動する部活ならではの年の差を感じず、壁がなく練習に打ち込めること。演奏が終わって拍手が聞こえる時にやりがいを感じる。(澤口 3S2 汐見小出身)
  • 練習している曲の合わせで和音になったときや、教えていた後輩が苦手な部分を弾けるようになっていたとき。(山野辺 2M1 杉の入小出身)
  • 特に施設訪問演奏と講習会が好きです。施設訪問の演奏会では聴いてくださる方との距離が近くて、聴いてくださる方の表情が見えるので、とても温かい気持ちで演奏できます。講習会は新しい発見や学びがたくさんあり、とても楽しかったです。さらに楽器が好きになりました。(久道 2M1 下増田小出身)

山形交響楽団と秀光オーケストラとのジョイントコンサート(2018年5月26日・宮城野校舎ゼルコバホール)

 

Question 4 活動で得られたものは....

  • 吹く時、自分だけを考えず周りの音を聞いて合わせることができるようになったことです。(永井 2S1 向陽小出身)
  • 舞台の上に立つことで、人前に立つことに慣れることができた。もともと人前に立つことが苦手だったけれど、オーケストラの活動を通して少しずつ人前に立って何かをする力が向上できた。また、練習する度に演奏技術が上がり、楽器を演奏する能力も得られたと思う。(松本 3S2 矢本西小出身)
  • クラシックやオーケストラについていろんなことを学べるのが楽しい。(桜井 3S2 岩切小出身)
  • 仲間と助け合うことの大切さです。言うまでもなく、オーケストラ部で音楽を完成させることは1人ではできません。仲間と協力し合ってこそ、いい音を出せるし、いい音楽を作り上げることができると思っています。だからこそ、当たり前のことが一番大切なんだなと感じています。(冨士原 2M1 釜小出身) 
  • どんなふうに演奏したら理想の演奏に近付けるか、どんな演出をしたら喜んでもらえるかなどの試行錯誤をして、いかに多くの人に大きな感動を与えられるかを考えることが、自分たちを大きく成長させていると思います。また、実際に楽しんでもらえているところを見ると、誰かのことを考えることの意味や、音楽の限りない力の大きさを知ることが出来ました。(奥村 2M1 山形第一小出身)

定禅寺ストリートジャズフェスティバルで(2015年9月13日)

 

Question 5未来への展望、夢は....

  • これから先も、楽器に限らず音楽の楽しさを忘れないでいたい。(吉冨 3S1 塩竈第三小出身)
  • 1つの楽器に集中して取り組むことで、将来も1つのことに打ち込むことが出来るようになる。自分の自信につながると思う。(松本  3S2 矢本西小出身)
  • 多人数で1つの目標へ向かう心は、将来いくつになっても活かせる。(澤口 3S2 汐見小出身)
  • 今はないけど、オケの演奏会や歌劇を見に行ってみたい。(桜井  3S2 岩切小出身)
  • 将来は何か1つは楽器を続けて、周りの人とセッションをしたい。(山野辺 2M1 杉の入小出身)
  • 音楽は秀光に入るまで何もやってきませんでしたが、秀光に入ってから楽しさを知りました。大人になっても少ない時間でも、続けられたら…と思っています。(阿部 2M1 大曲小出身)
  • 直接的な将来の夢とオーケストラ部の活動のつながりはまだ分かりません。ですが、オーケストラ部の活動の中で、いろんな試練を乗り越えて長く続けてきたことは、確かに活かすことができる経験になっていると思います。これから引退を迎え、受験へ立ち向かっていくとき、大人になったときでも、自分の中の大きな自信として持っていたいと思います。(奥村 2M1 山形第一小出身)

介護老人保健施設『やるきになる里』での訪問演奏(2019年9月1日)

 

困難を乗り越えながら
部活動の総決算をできたことに

「昨年から準備に入っていたスプリングコンサートが中止という段階から“今年はいったいどうなっていくんだろう”と部員一同不安な日々が始まりました。3月に入って、学校自体が臨時休校。ほとんど絶望的な気持ちになったのを記憶しています。7月のオンライン秀光祭決定!の報せには部員一同、飛び上がって喜びました」

10月3日に行われた『オンライン秀光祭』での演奏を終えて、部長の奥村さん(秀光コース2年)はこのように話す。

「夏の間の練習を経て秀光祭のための演奏ができたことは、秀光オーケストラ部の“1年間の総決算”を実行できたという意味で、とても感慨深いものがありました」

奥村さんたち秀光コース2年生の部員は、11月7日に実施される彼女たちにとっての部活動5年間、個々人にとっての“総仕上げ”となる『ソロコンサート』に向けての準備に入った。

1996 秀光中学校開校とともに弦楽部として創部。
1999 管楽器も入れてオーケストラ部として演奏。
仙台フィルの先生方への指導依頼をスタート。
2001 第1回SPRING CONCERT を開催。
2003 秀光中等教育学校開校 弦楽部からオーケストラ部に。
2006 学園創立100周年コンサートをNYSE(New York Symphonic Ensemble)とともに東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)で開催。
宮城県合奏発表会に初参加。
2011 多賀城市役所ロビーコンサート参加。
宮城県小・中・高等学校音楽発表会 管弦楽「金賞」。
2012 オルフェウス室内管弦楽団が来校し共演。
イタリア・クレモナ在住の楽器製作者が共同制作したヴァイオリンを寄贈される。
2014 定禅寺ジャズフェスティバル初参加。
管弦楽祭に初参加。
第1回STAND 仙台フィル&秀光オーケストラ・ジョイントコンサート(指揮はパスカル・ヴェロ氏)実施。
2015 宮城県高等学校音楽祭初参加。
宮城県合奏発表会初参加。
2018 障害者支援施設「萩の里 福寿苑」への訪問演奏。
2020 オンラインで開催の秀光祭で演奏。

(11月7日実施の『ソロコンサート』の模様は後日、学園HPのトピックスで紹介していきます)