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 第3回サイエンス・コ・ラボ

 
 
 
第3回サイエンス・コ・ラボ
日時:2012年9月8日(土) 13:00〜16:00
場所:化学実験室
テーマ:『植物油を原料とするバイオディーゼル燃料合成実験』
参加生徒:理系秀光5年生、特別進学コース2年生、
      特別進学コース1年生(希望者)
指導:東北大学大学院工学研究科
   化学工学科 反応プロセス工学
   工学博士 北川 尚美 准教授
   大学院生の皆さん

 今年7月からスタートした秀光中等教育学校と仙台育英学園高等学校 特別進学コースによる理科の共同実験講座『サイエンス・コ・ラボ』。第3回は、9月8日(土)、多賀城校舎化学実験室で行われました。
 今回は、東北大学大学院工学研究科の北川尚美准教授、そして6名の大学院生が指導のため来校してくださいました。
 受講生徒は秀光理系の5年生と特進2年生、1年生の希望者も参加。実験は、4人ずつの班に分かれて進められました。

新たな合成法の発見で
東北大学は世界初の特許!

 第3回は、「環境に優しいエネルギー〜植物油からバイオディーゼル燃料を作る〜」がテーマです。
 バイオディーゼルとは、ディーゼルエンジンで利用できる生物由来の原料から作られた燃料です。油脂に、メタノールと触媒を加えて生成します。バイオディーゼル燃料の利点は、主なもので2つ。1つは排気ガスに含まれる、硫黄や黒煙が少ないこと。2つめは原料に植物油を使用すれば、植物は成長過程で二酸化炭素を取り込んでいるため、燃焼させても大気中の二酸化炭素量を増加させないことです。この循環を「カーボンニュートラル」と言い、地球温暖化を防ぐための一助になります。

 排気ガスがきれいで、原料に廃食油などを再利用できる。非常にクリーンなエネルギーとして注目されているバイオディーゼル燃料ですが、問題点もあります。廃食油を使用できると言っても、何度も使用された油は遊離脂肪酸を多く含み、原料に適していません。遊離脂肪酸と、触媒で一般的に使われている水酸化ナトリウムが反応すると、石けんが出来てしまうからです。また、合成した際、90%はバイオディーゼルが生成されますが、残り10%はグリセリンという、どろどろした液体に。このグリセリンは廃棄物として燃やされ、ごみになってしまいます。
 東北大学では、その問題点を改善した触媒の使用方法を発見されました。反応の過程で石けんとグリセリンを作らず、生成したバイオディーゼルの取り出しが容易になる、固体の触媒。それが【陰イオン交換樹脂】という、0.5㎜程のプラスチックビーズ状の物質です。
 これは、樹脂を触媒とした油脂の燃料化で、世界初の成功例と認められ、特許を取得されています。

反応液の変化を見逃さない
生徒の真剣なまなざし


 今回の実験では、生徒たちがバイオディーゼルを合成し、その様子を観察します。食用油、廃食油と2種類の植物油を準備し、また触媒も従来から使用されている「水酸化ナトリウム」と、東北大学が特許を取得された「陰イオン交換樹脂」の2つを準備します。
 それらを5つの異なる条件で合成し、どの条件が、反応プロセス工学の一番の軸である、「環境に負荷をかけたり、無駄な物を出さずに『適切な反応条件で、最大の結果を出す』」ことができるか、観察しました。
 生徒は大学院生の皆さんから、実験手順の説明を聞きながら、AV試験紙(酸化チェッカー)を使用して、植物油の脂肪酸量を計測したり、触媒と植物油をまぜて様子を観察しました。生徒は些細な変化も見逃さないよう目を凝らし、結果をプリントに書き込んでいました。

 観察した反応液は、恒温振とう機という、撹拌しながら安定した温度で合成を進めることができる機械に入れ、50℃を保ったまま1時間置きます。
 反応するのを待つ間、油脂およびエタノールの分子量と、モル数を求めました。生徒が計算で難解な部分があると、大学院生の皆さんが、分かりやすく丁寧に教えてくださいました。
 そして北川准教授から、現在トウモロコシなど食用の原料を利用し、燃料用の油を作る国もあるが”食をつぶしてはならない”というバイオディーゼルの理念をお話して頂いた後、恒温振とう機に入れていた反応液の様子を観察しました。


触媒の違いで
バイオディーゼルの合成に変化が


 実験結果は、陰イオン交換樹脂を媒体とした瓶が、最も多くのバイオディーゼルを生成出来ました。また、同じ廃食油でも、触媒である水酸化ナトリウム量の違いでグリセリンの生成状態が変化したり、大きな石けんの塊が浮かんでいたりと、生徒は実験結果を興味深そうに観察していました。
 同時に、東北大学で用意して頂いた、100%反応が起こっているバイオディーゼルが配布されました。生成されたバイオディーゼルは粘性の低い、さらさらとした液体です。細かいメッシュシートで ろ過すると、触媒の陰イオン交換樹脂は残りますが、バイオディーゼルは簡単に通り抜けていきます。生徒は、バイオディーゼルと通常の油の違いや、固形触媒の分離のし易さを改めて認識したようです。

 

大事なのは経験!
夢と目標を持って進もう


 最後に、生徒に向けて北川准教授から、受験や将来に向けてのアドバイスを頂きました。自分の長所と短所を知る、夢と目標を持つ、たくさん失敗して学ぶなど、将来に向けて具体的に進んで行くようにお話してくださいました。
 また、「日本は資源が少ない国ですから、技術を磨くことが大切です。日本を柔軟な発想で、導いていって下さい」と笑顔で締めくくられました。
 北川准教授の高校時代からの夢は、「女性初」と言われる地位を得ることと、好きなことを仕事にするという2つ。「工学博士」となられたことで、ご自分の夢を叶えられた北川准教授のお言葉は、生徒たちにも強く響いたことでしょう。

 
第3回サイエンス・コ・ラボ 実験レポート
 
『サイエンス・コ・ラボ』について