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 第4回サイエンス・コ・ラボ

 
 
 

第4回サイエンス・コ・ラボ
日時:2012年10月13日(土) 13:00〜16:00
場所:多賀城校舎 化学実験室
テーマ:『ノーベル賞のケミストリー 〜鈴木・宮浦クロスカップ     リング反応〜』
参加生徒:秀光4・5年生および理系の特別進学コース1・2年生(希望者)
指導:東北大学大学院工学研究科 応用化学専攻
    東北大学環境保全センター 大井研究室
    大井 秀一 教授
    佐藤 徹雄 助教
    大学院生の皆さん

 今年7月からスタートした秀光中等教育学校と仙台育英学園高等学校 特別進学コースによる理科の共同実験講座『サイエンス・コ・ラボ』。第4回は、10月13日(土)に行われました。
 今回は、東北大学大学院工学研究科の東北大学環境保全センター 大井研究室の大井秀一教授、助教の佐藤徹雄先生、そして9名の大学院生が指導のため来校してくださいました。
 受講生徒は秀光4・5年生と、特進1・2年生の希望者。実験は、4人ずつの班に分かれて進められました。

▼布、レジ袋、人間の身体も…
 身近に存在する”有機物”

 第4回のテーマは、『ノーベル賞のケミストリー 〜鈴木・宮浦のクロスカップリング反応〜』です。
 まず大井教授から、「有機化学とは一体なんなのかを踏まえた上で、実験テーマであるクロスカップリングについて説明します」とスライドでご説明いただきました。化学における物質には”有機物”と”無機物”があり、炭素原子を含むものが有機物です。繊維、プラスチック、医薬品など、有機物は身近に多く存在します。
 ここで「実は、香りも有機物です。香りの成分が解明されているので、同じものを有機化学でつくれるんですよ」と、大井教授。


 生徒は実際に、東北大学から持って来て頂いたジャスミン、バナナ、ストロベリー、ピーチの4種類の香りを嗅いでみることに。ケースの中の脱脂綿から本物と同じ香りがして、生徒たちは驚いた表情をしていました。

 

安定した物質を使った
 クロスカップリング反応の発見


 そして説明は、実験のテーマである『鈴木・宮浦クロスカップリング反応』の話題に。
 クロスカップリングとは、二つの異なる化合物を選択的に結合させる反応です。2010年にノーベル化学賞を受賞した、鈴木・宮浦クロスカップリング反応は、触媒に”酢酸パラジウム”という金属を使います。組み合わせる物質が両方安定して扱いやすく、副生成物に毒素が発生しない、数あるパラジウムカップリング方法のなかで最も実用性が高い反応です。この反応で生成される”ビアリール化合物”は、抗がん剤などの薬品、液晶、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)に必要な材料となります。

 

▼次々に起こる反応
 ビーカーから目を離せません


 クロスカップリング反応について理解したあとは、いよいよ実験開始です。
 今回はフェニルボロン酸と、pーブロモ安息香酸の鈴木・宮浦クロスカップリング反応についての実験です。
 始める前に、実験の指示をしていただく助教の佐藤先生から、「今日は比較的簡単な実験を選んできました。しかし、薬品の取り扱いには充分注意して下さいね」との諸注意がありました。そのあと各班で、大学院生の皆さんと実験器具の確認を行います。
 薬さじを使って薬品を計り取ったら、班ごとにスタートです。水溶性の薬品を、マグネチックスターラーという、磁石を回転させてビーカーを撹拌する器具を使用して溶かします。そこに触媒である酢酸パラジウムの溶液を入れると、透明だったビーカーの水は反応し、白く濁った液体になりました。
 さらに、中和させるための塩酸を入れると、二酸化炭素が発生し泡が出て、モコモコと膨らんできます。溶液が次々に変化するのを、生徒は興味津々といった様子で見つめていました。

▲精製水 ▲薬品と酢酸パラジウムが反応 ▲塩酸で中和

 佐藤先生は、「普通、有機化学というのは、熱を加えて長い時間をかけるのが一般的なんですけれど、ご覧のとおり、室温で、しかも一分間くらいで反応が起こりましたね。扱いやすい物質を使っているうえ、反応もすんなり起こるというところで、すごい反応だ、と実感してもらえたらと思います」と説明されました。
 最後に、ビーカーに白い粉末が生成されるので、それをTLCプレート(薄層クロマトグラフィー)という、生成物がどのような物質になったのかを確認をするプレートで測定します。これで、生成物がビアリール化合物であることを視覚的に確認することができました。


▼『物質が出来る過程が大事』
 有機化学が開く未来


 実験が終わると、佐藤先生は、「分子は目で見ることができないんですが、なるべく泡が出たり、視覚的に反応が進んでいることが分かる実験を設定しました。そして、今回の実験は、ビーカーに生成されたものに価値があるのではなく、出来た過程にあるんですね。今日はそれを体験してもらいました」と、生徒に言葉をかけました。
 はじめの大井教授のお話に、”もしかしたら有機化学で窓ガラスのように薄いテレビを作ったり、ペットボトルから風邪薬を作れるかもしれない”という内容がありました。今回の実験で、生徒たちにも有機化学が創る未来が少しだけ見えたかもしれません。

第4回サイエンス・コ・ラボ 実験レポート

 
 
『サイエンス・コ・ラボ』について