四国の自然の中を歩き、お経を読む

 仙台育英学園高等学校硬式野球部、2年生を中心とした28人が11月、四国へお遍路に出ました。
  「2005 至誠真勝の研修」。11月10日に多賀城校舎を出発し、11日朝、愛媛県松山市に到着。四国八十八霊場中、第四十八番目の札所である西林寺(愛媛県松山市)から巡拝をスタートし、16日までの5日間で七十番まで23の寺をお参りしました。

 お遍路道をともに歩いた部員28人の胸の内には、このような思いがありました。「事故があった5月22日、自分たちは公式戦、結果 は負けてしまった。夏も負け、秋も負け、自分たちは3人に何もしてあげることが出来なかった」。

 部員たちは、四国の自然の中を歩き、お経を読み、そしていろいろな人の話を聞き、たくさんのことを学びました。


あの不条理な事故に対して「なぜ」と問いかけながら


 部員たちは札所(霊場)の多くを徒歩で巡拝しました。車が行き交うアスファルトの道を歩くときには、「後ろからトラックが来ます」「前から二台、車が来ます」と互いに注意を喚起し合いながら。蜜柑(みかん)畑が続く道を歩き、秋の紅葉に彩 られた木立の中の山道を抜け、山門までの石段を登りました。

 歩きながら、部員たちは心の中で問い続けました。手にはお大師さまである金剛杖を持ち、背中には納経帳、般 若心経の経本を入れたリュックを背負いながら。

 「高校生という人生の中で一番楽しい時期を何の罪もないのに命を奪われてしまった。何故こんなことが起こってしまったのだろう」

  そのような思いを抱きながら、歩きました。


仙遊寺ご住職の言葉に耳を傾け

 11日夜に宿泊した仙遊寺(五十八番霊場)では、翌朝6時からのお勤めで、読経の後にご住職からとても印象深い法話をいただきました。ご住職は「命」について、このように説かれました。

 「私はいま、この遺影を前にして思います。ご家族の方々は心臓をえぐられるような痛みを生涯持ちながら生きていかれるのだろうなと。だからみなさんも、自分の家族のことを考えながら生きていってほしいと思います。あなたの命は自分一人のものではないのです」

 「命をどう生かすか。お釈迦さまの最期の言葉(入滅時の最後の教え)は『自灯明(じとうみょう)』という言葉です。これは“自らを輝かせよ”という言葉でした。自らを輝かせる。これは“信じるのは自分だよ”ということ。“自分を生かすのだよ”ということです。こういう生き方こそが大事だと思います。みなさんの能力はそれぞれ違うと思います。でも、一つひとつが比べることのできない命です」

 一つひとつが比べることのできない命…。ご住職は、この“大切な命”を生かすためには「辛抱」と「一生懸命」であることが大切、と説きます。

 「みなさんには“辛抱(しんぼう)というものが大事だよ”ということを言いたいと思います。レギュラーになれる人となれない人、この中できっちりと分かれてしまうと思います。“自分は球拾いかな”と思う人もいるでしょう。でも、私はそんな人には、こう言いたい。“一生懸命、立派に球拾いしなさい”と。何かをとことんやるということが大切。そしてそれを続けることが大切だと私は思います」

 そしてもう一つ。ご住職はこうも話されました。「悩み、そして失敗しなさい」と。

 「だから私は“みんな、一生懸命悩んで失敗しなさい”と言います。一生懸命やったら、必ず失敗があります。でも私はその失敗を無駄 だとは思いません。その失敗から必ず学ぶことがあると思うのです。その失敗が、そこからまた出発するための“足元”になると思うのです。こういうことをみなさんには是非、体験してもらいたいと思います」

 部員たちは、これらの言葉を心にしっかりと受け止め、宿坊の掃除をし、ご住職をはじめ寺の方々にお礼を述べて、仙遊寺をあとにしました。


お遍路道をひたすら黙々と歩きながら

 四国の札所(霊場)を巡拝しながら修行をするお遍路の多くは、現在、バスなどの交通 機関を利用して行われています。硬式野球部員の巡拝も一部は随行するバスに頼りましたが、多くは徒歩による巡拝。あえて、“難所”と呼ばれる遍路道にも挑みました。

 西日本で最高峰、標高1,983mの石鎚山。この山を望める横峰寺(六十番霊場)への歩いての挑戦がその一つ。横峰寺への道はバスによるコースでも急傾斜で蛇行した道で、並大抵ではありません。そこを部員たちは一般 道の行き止まり地点から寺へと続く、場所によっては30度以上もある急勾配の山道を一気に登り切りました。2時間の予定が、その半分の1時間で。

 また、流れる車の列に沿って、その脇のアスファルトの道の上を歩き続ける遍路も体験しました。歩きながら、部員たちはさまざまなことを考えました。

 「急な山道でもリュックの中の3人と一緒に歩いているのだからと、少し疲れたぐらいで笑顔を絶やしていられるかと、3人に背中を押してもらっているような気がしました。そんな時、人間の命の重さというものを本当に心の奥から感じることができました」

 また、生きることに意味についても。

 「いま、何不自由もなく生きている自分たち。楽しいだとか悲しいなど感情を持てること。夢を持って努力することが出来る自分たち、本当に幸せなんだと感じた。だから、生きる義務があるのだろうと思う」

 一日のスケジュールを終え、宿泊地に着いても、部員たちは毎夕、駐車場などでの素振りを欠かしませんでした。また、朝には五時前に起き出し、基礎トレーニングに励みました。そして5日間をかけて23の札所(霊場)を巡りました。


天国にいる3人に笑顔を届けたい

 この5日間、28人の部員たちの胸にはさまざまな思いがわき起こったはずです。  一人ひとりが自らに問い、そして自分なりの答えを導き出していきました。

 「自分は天国にいる3人の仲間に笑顔を届けたい。それも仙台育英学園全生徒からの笑顔を3人に届けたいと心から思う。そうすればきっと、自分たち一人ひとりの心の中にいる3人もきっと笑ってくれるのではないかと思う」

  そして続けます。

 「それを現実のものにするには来年夏の甲子園出場でしかないと思う」

 28人の思いはそれぞれでも、決意はみな同じです。

 「3人のために出来ること。それは3人の分もたくさんのことに挑戦し、学んでいくこと。そして今生きていることに幸せを感じて、今を全力で生きること。最後に、出来ることは、2年生にとって残り1回の甲子園のチャンスにかけて、3人を甲子園へ招待することだ...」

 部員28人は、この旅を通してひとまわり成長したように思えます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
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